第4回 知らない間に息子が「闇児童」になっていた

第4回 知らない間に息子が「闇児童」になっていた
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 息子の通う小学校で日本語を教えるようになって1カ月。悪ガキたちに手を焼いた私は、大学の同僚に「大学生と違って大変過ぎる。成績にも関係しないから勉強に興味がない子は全く聞いてくれない」と愚痴を言いました。すると同僚は「だからいいのよ。これが英語だったら大変よ」と予想外の反応を示しました。

 「英語はとても大事な教科でしょ。だから課外授業であっても教える側はプレッシャーがかかる。でも日本語は成績にも受験にも関係ないから、保護者が何か言ってくることはない。親目線だと無料の習い事くらいの感覚なんだから、気楽にやればいいよ」

 「小学校の授業」だからと真剣に取り組んでいた私にとって、同僚の言葉は目からうろこでした。考えてみれば総合学習は本来担任の先生が実施すべき授業です。私が代替することで、ストレスだらけの先生に休息の時間を提供することに授業の価値があるのかもしれません。

 気が楽になった私は、授業の構成をがらりと変えました。前半は新しい内容を少しだけ教えて、「確認テスト」を行い、その後はご褒美として日本のアニメを上映することにしたのです。効果はてきめんで、集中力の持たない子どももアニメ見たさに真面目に授業に取り組むようになりました。

 この話には後日談があります。中国の学校は9月始まりの2学期制で、毎年1月中旬から2月末までは冬休みになります。私たちはこの期間に一時帰国し、息子は日本の小学校に通っていました。

 区役所で転入の手続きをする時、海外の学校に通っていたことを示す証明書を求められ、学校との橋渡しをしてくれていた中国人の同僚に問い合わせたところ、「裏口だからないよ」と返ってきました。

 同僚によると、公立小学校は定員が決まっており、だからこそ人気の高い学校は入学資格者を「持ち家がある人」などに制限するということでした。私たち親子は、「外国人だし、中国で進学するわけじゃないから」との判断の下、「もぐり」「闇児童」扱いで通わせてもらっていたのです。言われて見れば、校長との最初の面談でも「シュエジー(学籍)」という単語が飛び交っていました。あれは「正式な学籍はないけど」と説明していたのかもしれません。

 結局、中国の小学校のプリントや時間割を提出することで、区役所は転入手続きを進めてくれました。中国には「上に政策あれば下に対策あり」という言葉があります。ルールがあっても現場の運用でなし崩しになるという意味ですが、それを象徴するような体験でした。

小学1年生の担任の先生と。先生によると、中国の学校は原則クラス替えがなく、異動も少ないという。
小学1年生の担任の先生と。先生によると、中国の学校は原則クラス替えがなく、異動も少ないという。

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