第2回 足りないのは法律知識だけ?

第2回 足りないのは法律知識だけ?
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 私のような弁護士(法律家)がワークルール教育の重要性を指摘すると、労働法の知識を教えるものとイメージされがちだ。しかし、私が考えるワークルール教育の内容は少し違う。

 もちろん、法律知識は無駄ではない。有給休暇の制度を知らねば、「ウチには有休なんてない」という管理職の話をうのみにし、無自覚に被害に遭う。しかし、権利があることを知っただけでは役に立たない。

 エクスペディアが実施した「有給休暇の国際比較調査」によると、2023年の日本の有給休暇取得率は63%で世界11地域中の最下位だが、労働者の多くが権利の存在を知らなくて権利行使しないわけではない。

 日本労働弁護団の意見書(13年発表)は、ワークルール教育を法律だけでなく「ルールを実現するための諸制度等に関する教育」を含むとし、日本弁護士連合会(日弁連)の意見書(17年発表)も知識付与とともに「職業生活において生ずる諸問題に適正に対処するために必要な分析力、交渉力及び問題解決力を育むもの」と定義している。

 私のような法律実務家が法律知識だけ教えても意味がないと考えるのは、多くの労働トラブルを通じての実体験からくる。労働者は、労使関係から生じる力関係の差異、職場秩序の同調圧力や自己責任論などの職場風土から、権利行使を躊躇うのが通例だ。「早く帰れないのは仕事が遅いからだ」と自分を責め、未熟な自分が休憩を取りたいなんてまだ早いと受け入れ、体調が悪くても職場に迷惑は掛けられないから休めないと諦める…。読者の見聞きする職場でも、ありふれた光景ではなかろうか。

 日本労働組合総連合会(連合)が実施した意識調査(24年10月実施)では、職場トラブル(いじめ・労働時間など)を経験した人の割合は41.1%だが、解決に向けてどんな行動をしたかを聞くと「人事・上司に相談」(33.6%)、「家族・友人に相談」(26.0%)、「同僚に相談」(23.4%)が上位だ。「何もしていない」は18.2%、「退職・転職した」は14.4%で、解決に向けて行動しないことを選択している人も少なくない。

 職場で深刻なトラブルに遭った労働者に、適切なアドバイスを送るのは簡単ではない。同僚や家族友人の傾聴は心理的援助になるが、深刻複雑なトラブル解決には無益どころか有害なことも多い。人事上司から常に有益なアドバイスが受けられるはずもない。なぜなら、多くは対立当事者の立場だからだ。

 ワークルール教育では、労働者を自己責任論から解放し、権利行使の意味を伝え、病気になれば病院に行くのと同様に適切な職場内外の相談場所を知らせることも重要なのだ。

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