第5回 親も教師も悩む贈り物文化

第5回 親も教師も悩む贈り物文化
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 中国には「教師の日」というものがあります。毎年9月10日、祝日にはなりませんが「母の日」並みの認知度で、私が勤めていた大学では午後も授業があるのに教員食堂でビールが振る舞われていました。

 教師の日には教師に感謝の気持ち=プレゼントを贈るのが慣例となっており、子どもが小さいうちは親が教師にプレゼントを渡し、中高生になると生徒が花を買ったり、クラス単位でプレゼントを用意したりします。

 最初に中国に留学した年、大学教授の研究室にあいさつに行きドアを開けるとたくさんの胡蝶蘭が目に飛び込んできました。「お花が好きなのですか?」と聞くと、「教師の日だからね」とのことです。自室に戻ってインターネットで調べ、初めて「教師の日」の存在を知りました。私も何か持って行くべきだったわけで、何とも間が悪い日に訪ねてしまったものです。

 自分はともかく、息子のときに失敗するわけにはいきません。最初の年は自分が使うために日本から持ってきた化粧品セットを渡し、翌年以降は中国人のママ友にリサーチしながら、プレゼントを調達しました。

 その後、私は中国で大学教員になり、自分がもらう側になりました。大学だとクラス単位で花束を贈られることが多かったですが、数年たつとクリスマスにも花束を贈るクラスが出てきました。

 ある年のクリスマスの午後、同僚のY先生が「うちの学生たちはプレゼントをくれなかった。きっと私が普段から厳しいからだ」と泣き出しました。私は「そんなことで?」と思いましたが、Y先生は「私のメンツがつぶれた」と涙をぽろぽろこぼしています。

 Y先生と別れた後、私はすぐに彼女のクラスの仕切り役の学生に電話をしました。「クリスマスなのに何もしてもらえなくてY先生がショックを受けていたよ」と話すと、学生は「だって私たちはキリスト教徒じゃありませんよ。中国人が祝うのは春節でしょう」とのこと。全く悪気はなかったのです。なぜか私が「他の先生がもらっている中で、Y先生のメンツもあるでしょ」と中国文化を説明すると、その学生は「なるほど」と急いで花を買いに行きました。

 翌朝、Y先生が笑顔でやって来て「昨日は私が勘違いしていたようです。夜遅く、学生が花を持ってきてくれました」と写真を見せてくれました。写真には、金粉がまぶされた花束が写っていました。「金のデコレーションをしていて、仕上がりが遅くなったと学生が言っていました」とY先生。金粉で豪華に見せる花束は私も受け取ったことがありましたが、遅れた言い訳に使えるとは…。学生のとっさの知恵に感心したものです。

勤務していた大学の同僚たち。一番左が筆者。
勤務していた大学の同僚たち。一番左が筆者。

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