6月の7~9日に、中国では大学統一入試「高考(ガオカオ)」が実施されました。日本でも報道されるので、中国の大学入試が「国にとっての一大イベント」であることはかなり知られるようになりました。入試期間中は全てが受験生ファースト。アクシデントに遭遇した受験生を支援するためにパトカーや白バイのチームも結成されます。
不正対策は日本人には考えられないほど徹底され、ハイテク技術も惜しみなく投入されています。試験用紙は警察車両に護衛された装甲車で輸送され、試験会場の電波遮断、金属探知機での荷物検査は当たり前。AIが怪しい動きを感知するシステムも導入されています。ドローンとロボット犬で監視に当たった会場もあったそうです。
中国の大学入試がなぜこれほどの厳戒態勢で行われるのか。それは日本とは比べ物にならないほどの学歴社会で、かつ大学入試が一発勝負だからです。中国には私立大学もありますが、日本ほどは一般的ではなく、大半が国立です。そして、日本のような総合型選抜、推薦型選抜もごく一部でしか行われていないので、大学進学を目指す人はほぼ全員が高考に参加します。
日本ではあまり知られていないこととして、「統一試験」なのに作文など一部科目の問題が地域によって異なることや、各大学が地域別に定員を設けていることなどがあります。
例えば、北京には清華大学、北京大学など多くの難関大学が立地しますが、北京の大学は一般的に北京戸籍(戸籍制度は複雑なので本記事ではざっくり出生地と考えてください)の定員を多めにしています。北京で実施される高考は一部科目が他都市より易しいとも言われ、北京戸籍の受験生は入試において極めて有利だというのが中国での共通認識になっています。私は大連に住んでいましたが、周囲の大学関係者は「教育行政の政策決定者は皆、北京戸籍。子女を難関大学に入れるためにこの既得権は絶対に手放さないだろう」と諦め顔でした。
さらに、教育環境に恵まれない地域の受験生の学習機会を確保するために、チベット自治区や新疆ウイグル自治区など辺境地域の受験生も入試では優遇されます。そのため、以前は都市部から辺境地域に戸籍を移す家族が後を絶たず、「高考移民」として問題視されていました。つい数年前も中国有数の進学校の校長が、自身の子どもをチベットの高校に転校させて現地の戸籍を取得していたことが明らかになり、SNSで大炎上しました。