第7回からコミュニケーションの形態についてお話してきました。今回は、生徒がタブレット端末を使うことが前提の授業について、さらに深掘りしていきます。
生徒一人一人がタブレット端末を授業中に活用することで、「情報」のままでのコミュニケーションが可能となりました。タブレット端末が登場する以前は生徒に「情報」を提示する際、いちいちプリントという「もの」に変換するか、プロジェクターなどで提示するしかありませんでした。印刷には教師側に用意するコストがかかりますし、投影されたスライドの内容を書き写すと生徒側に手書きのコストがかかります。
そうした中、タブレット端末を活用するだけで、大幅なコスト削減が実現するのです。それだけではありません。「情報」でのコミュニケーションであれば、「ローカル」「同期」でなくとも「リモート」「非同期」でのやりとりも可能となり、宿題をデジタルで配信すれば生徒は自宅から提出できるようになるのです。
こうしたいわゆるペーパーレスが実現すると、「情報」から「もの」に変換するコストが削減できますし、これまで「リモート」「非同期」でしか使われなかった「情報」のみのやりとりを「ローカル」「同期」で行うことで、さらに実りのある授業へと発展します。一つのファイルを複数人が同時に編集することや、提示したテーマについての意見を瞬時に集約することも手軽にできます。子どもたちがタブレット端末を日常的に利用できる環境が整ってこそ、個別最適化された授業や協働学習といった令和型の授業が実現するわけです。
タブレット端末を生徒たちが文房具と同じように使える時代をつくりたい。そう考えた私は、前任校では環境を整えることに注力しました。県教委が整えたネットワークでDHCPの輻輳(ふくそう)が起こった際は全てのタブレット端末のIPアドレスを固定することで対応しました。端末を活用することに懐疑的な先生方が事あるごとに心配されていたので、少しでも活用してくれる仲間とも呼べる先生を地道に増やしました。「情報Ⅰ」の授業ではタブレット端末やクラウドサービスの使い方などを全クラスで教えたので、数年かけて全ての生徒がタブレット端末をある程度使えるようになりました。毎年行われる校内での情報モラル講話は自ら講師を担当し、正しい使い方を広めました。こうして学校全体の下支えをしていくことでDXの土台が徐々に完成し、否定派の先生の心配事を減らすことに成功したのです。