1人1台端末の配備が進み、授業での活用が当たり前となりつつある今、私たち教職員は新たな課題と向き合っています。タブレット端末はハードウェアとクラウドサービスを組み合わせて活用するわけですが、利用できるクラウドサービスはハードウェアによって異なります。クラウドサービスによっては端末に依存しないものもありますが、多くが有料サービスとなるので、保護者負担で利用料を支払う必要があります。
過去に参加したある研修会で、違和感を覚える場面がありました。表向きは「より良い授業実践のための勉強会」でしたが、途中で「どうやったら利用者を増やせるか意見交換しましょう」というテーマについて話し合う場面がありました。その瞬間、これは教育の質向上ではなく、サービス普及のためのマーケティング活動なのではないかと感じました。
多くのICTサービス提供企業が認定資格制度を設けています。資格取得者は定期的に研修会を開催し、報告書を提出することが義務付けられます。熱心な教育者ほど、より高度な資格を目指し、やがて普及活動の担い手となっていきます。自分が何者かになれるという自己肯定感や同じICTサービスを使う仲間との活動は一見かけがえのない出会いを演出してくれますが、この構造は教育への純粋な情熱を商業的な目的に巧妙に結び付けているのです。
一方で、昨年度参加した文部科学省のリーディングDXスクール事業では全く異なる体験をしました。この事業は「GIGA端末の標準仕様に含まれている汎用(はんよう)的なソフトウェアとクラウド環境を十全に活用する」ことを探究するものでした。特別な有償ツールに頼らず、配備されたままの状態のタブレット端末を活用する実践例が数多く生まれました。生徒たちの学びも確実に深まり、「ツールありき」ではない教育の可能性を実感できました。
教育ICT市場は急拡大しています。自治体単位での契約獲得は企業にとって大きなビジネスチャンスです。しかし、私たち公教育に携わる者は、税金で購入するツールの選定において、真に教育効果の高いものを見極める責任があります。商業的な思惑そのものを否定するつもりはありませんし、優れたサービスが適正に評価され、持続可能な形で提供されることは重要です。ただし、教育者は常に「子どもたちの学びにとって本当に必要なものは何か」という原点に立ち返る必要があるのです。
今後も新しいツールやサービスが登場するでしょう。認定者制度やアンバサダー制度も充実すると思います。懇親会やセミナーなども多数開催され、コミュニティーを形成しようとすることが容易に考えられます。その際、表面的な機能や営業トークに惑わされず、教育現場の実情と子どもたちのニーズを第一に考えた判断ができるよう、私たち教育者の目を養っていくことが求められているのではないでしょうか。(おわり)