第6回 ワークルール教育は教員の働き方も変える?

第6回 ワークルール教育は教員の働き方も変える?
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 筆者の所属する日本労働弁護団は、高校や大学で私のような労働弁護士によるワークルール教育の出前授業(講師派遣)を行っている。そこで、生徒や学生たちよりも熱心に話を聞いてくれたのが教員であったというのは、よくあることだ。

日本労働弁護団が実施した出前授業の様子
日本労働弁護団が実施した出前授業の様子

 教師の働き方改革が問題となって久しいが、文部科学省が公表した調査によると2023年度の公立教員の精神疾患による病気休職者数は7119人で、過去最多を更新した。要因としてまず挙げられるのは、私自身も法改正に向けて取り組む給特法が関わる長時間労働だ。24年実施の日教組調査でも、いまだ公立学校教員の時間外労働は1カ月88時間36分と過労死ラインを超過している。

 とはいえ、労働法的観点だけを見ても、要因はそれだけではないはずだ。カスタマーハラスメントとも言えるような保護者の不適切対応で孤立・疲弊し(私の把握する限り、学校関係者にはカスハラ対策の意義や基本的対処法の周知が不十分)、労基法の定める休憩も取れない過密労働で疲労が蓄積し、パワハラ・セクハラも多くの教員を苦しめる。

 教員の労働問題に取り組んできた筆者の素朴な疑問は、学校で働く労働者(教員)は、これだけ子どもたちの将来を気遣うのに、なぜ自身や同僚の労働問題には無自覚なのかという点である。教壇から去る多くの若手教員は、少し前まで気遣われる側(子ども)でもあったのに。

 ワークルール教育では、過労死などを引き起こす要因、基本的防止策(持ち帰りを含めた労働時間把握の重要さ、労働組合の重要さ)を説明し、残業代制度の趣旨について質問する。答えは「長時間労働抑制」だが、教員の多くもこの基礎知識を知らずに働いている。 

 自らの職場環境を顧みて、自身がワークルール教育に関わることにある種の理不尽さを感じる教員がいるのも当然だろう。労働法の基礎知識を学ぶ機会を持たないまま教壇に立つ教員は、自分たちの職場のワークルールの特殊(異常)さ(労基法の定める休憩も取得できない、労働時間が把握されない、困難保護者対応をこなせて一人前と放置されがち)に意識が向きにくく、助けを求めたときに受け入れる職場風土も醸成されにくい。

 子どもたちに基本的な労働法の知識を伝え、理不尽な職場の出来事にあらがう力を伝えることは、教員自身に職場の課題にあらがう力を付与し、職場風土に風を吹き込むことにもなる。教員が教えることは、自身が学ぶことにつながるはずだ。

 とはいえ、業務削減が必要な教員に、ワークルール教育という新たな業務を押し付けるのかというのも当然の指摘だ。これに対する私なりの回答は次回述べる。

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