個別最適な学びとは 教育専門メディアが解説

個別最適な学びとは 教育専門メディアが解説
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 近年、教育界では「個別最適な学び」という言葉がよく聞かれるようになった。国際紛争や未知のウイルスの感染拡大、地球温暖化など、これからの子どもたちには予測困難な時代を生き抜く力が求められている。そうした力を養っていくために、文部科学省が示したGIGAスクール構想の下で、ICTを一層活用しながら個別最適な学びを進める必要があるとされるようになった。個別最適な学びが求められるようになった背景や、これまでの動き、これからの教員に必要とされる力などを、有識者の見解や学校現場での具体的な事例などを基に詳しく解説する。

 

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 国が個別最適な学びと言う概念を最初に示したのは2021年1月、中教審が「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」として取りまとめた答申だ。中教審とは、文部科学省に置かれた有識者による会議体で、教育や学術、文化に関する基本施策について調査・審議をしている。

 答申では、2019年6月に「学校教育の情報化の推進に関する法律」が公布・施行され、GIGAスクール構想により、ICT環境整備の取り組みが進められているとした上で、子どもたちが自己調整しながら学習できるよう指導することが重要だと強調した。その上で、基盤的なツールとなるICTも最大限に活用しながら、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく育成する個別最適な学びと、子どもたちの多様な個性を最大限に生かす協働的な学びの一体的な充実が求められるとしている。

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2.指導の個別化とは何か?

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 答申では個別最適な学びを、「『指導の個別化』と『学習の個性化』を学習者の視点から整理した概念」と定義付けた。この指導の個別化については、

 ▽支援の必要な子どもに対し、教師がより重点的な指導を行うなどして、効果的な指導を実現する

 ▽子ども一人一人の特性や学習進度、学習到達度に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うこと

 などだと整理している。こうした指導の個別化で、全ての子どもに基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、思考力・判断力・表現力等や、自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するとした。

 一方の学習の個性化については、

 ▽基礎的・基本的な知識・技能等や、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台とする

 ▽幼児期からの体験活動から得た子どもの興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じる

 ▽探究において課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現を行うなど、教師が子ども一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供する

 と整理した。すなわち学習の個性化とは、興味・関心に応じた異なる目標に向けて、学習を深め、広げることを意味する。その中で、情報の探索やデータの処理と視覚化、レポート作成、情報発信といった活動にICTを効果的に使えば、学びの質が高まり、深い学びにつながっていくと期待されている。

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3.協働的な学びとは何か?

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 協働的な学びは、「同じ目的のために、対等の立場で協力して共に働くこと」と定義されている。中教審は2021年の答申で、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が求められる」と明示した。その上で、協働的な学びを、探究的な学習や体験活動などを通じ、子ども同士や多様な他者と協働しながら、持続可能な社会のつくり手となることができるよう、必要な資質・能力を育成する学びだと改めて整理している。

 その中では、ICT活用により、子ども一人一人が自分のペースを大事にしながら共同で作成・編集等を行う活動や、多様な意見を共有しつつ合意形成を図る活動などで、協働的な学びを発展させるとしている。加えて、ICT活用により空間的・時間的制約を緩和することによって、遠隔地の専門家とつないだ授業や、他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった学習活動が可能になるとも指摘している。 

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4.個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を目指す背景

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 中教審は2016年答申で、2030年の社会と子どもたちの未来について、複雑で予測困難となっていくとした上で、「社会の変化にいかに対処していくかという受け身の観点に立つのであれば、難しい時代になると考えられるかもしれない。(しかし)変化を前向きに受け止め、私たちの社会や人生、生活を、人間ならではの感性を働かせれば、より豊かなものにしたり、現在では思いもつかない新しい未来の姿を構想し実現したりしていくことができる」と述べた。

 その上で、「生まれ育った環境にかかわらず、また、障害の有無に関わらず、さまざまな人と関わりながら学び、その学びを通じて、自分の存在が認められることや、自分の活動によって何かを変えたり、社会をよりよくしたりできることなどの実感を持つことができる」とした。

 この答申を踏まえ学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びの実現に向け、「児童生徒が生命の有限性や自然の大切さ、主体的に挑戦してみることや、多様な他者と協働することの重要性などを実感しながら理解することができるよう、各教科・科目等の特質に応じた体験活動を重視し、家庭や地域社会と連携しつつ体系的・継続的に実施できるよう工夫すること」が授業改善に必要だとされることになった。

 こうした経緯を踏まえ2021年答申では、個別最適な学びについても単独で進めるのではなく、子ども同士や多様な他者と協働して学ぶことと一体で推進するよう求めている。

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5.個別最適な学びの実現に向けたポイント

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 教育新聞では、文部科学省が推進する新たな施策について、多種多様なデータに基づいて検証し詳細に報じている。文部科学省が2024年7月に公表した、小学校・中学校における「全国学力・学習状況調査」の結果から、個別最適な学びと協働的な学びのいずれにも積極的な児童生徒で正答率が高いと示されたことや、同省によるコメントなどについては、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

教師に問われる力

 教育新聞では、教育界の最新のキーワードを巡り、さまざまな有識者や現場の声を特集記事やインタビュー記事などで伝えている。

 個別最適な学びに関する深堀り記事で取材した上智大学総合人間科学部教育学科の奈須正裕教授は、中教審の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の委員を務め、山形県天童市立小学校の「マイプラン学習」の導入などに関わった。

 同教授は、個別最適な学びに取り組むことで、一斉指導ではなかなか見えなかった子ども一人一人の学びの姿が浮き彫りになると話す。さらに個別最適な学びを実践する上では、教科内容の系統的な理解といった教師の基礎力が改めて問われてくると指摘する。

実現に向けた動き

 上智大学の奈須教授のほか、経産省「未来の教室」事業を手掛けた同省の浅野大介産業資金課長、リクルートホールディングスで「スタディサプリ」事業を立ち上げた現LITALICOの山口文洋社長、安居長敏ドルトン東京学園中等部・高等部校長、ROJE代表理事を務める鈴木寛東京大学・慶應義塾大学教授らが登壇したフォーラムでは、「個別最適な学びで学校の一日はどう変わるか」といった内容の講演やパネルディスカッションがあった。

 その中で、教育新聞のオピニオン執筆メンバーでもある鈴木教授は「1人で学ぶのがよいのか、2人、4人……といったグループで学ぶ方がよいのか、誰と学ばせるのがよいのか、コーチングはあった方がよいのか、といったようにデザインし、協働学習も最適化するのが教員の役割だ。全ての学校が旧態依然としているわけではない。挑戦をしようとしている教員はたくさんいるし、それをサポートする学校管理職、それを支える地域やNPOもいて、日進月歩で進んでいる」と指摘した。このフォーラムの詳細は、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

ICTを活用した実践例

 教育新聞では、現場教員や教員志望者の研さんに資する本を定期的に伝えている。個別最適な学びに関しては、宮城県公立小学校の教諭として長く勤務する著者が、2010年ごろから「個に応じた学習」「協働学習」を実践した取り組みを、ICTを導入した近年の実践例とともに伝える本を紹介している。

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6.学校における実践例

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多層型支援を取り入れ個別最適な学びを実現

 教育新聞では、学校現場の現地取材も数多く実施し、実践の詳細を伝えている。埼玉県戸田市立小学校で2024年11月に開かれた研究発表会の取材では、各学年で多層型支援やポジティブ行動支援を取り入れ個別最適な学びを実現した公開授業の他、教育新聞のオピニオン執筆メンバーで戸田市インクルーシブ教育戦略官の野口晃菜氏らが登壇したパネルディスカッションについて伝えた。

 パネルディスカッションでは、広島県教委の学びの変革推進部義務教育指導課教育指導監の村田耕一氏が、同県の小学校・中学校などで研究を重ねた個別最適な学びについて話を展開した。詳細は、教育新聞のニュース記事で読むことができる。

「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」の関係を図解

 文部科学省の教育課程課は2025年5月、「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が一体となった授業づくりへのイメージを学校現場に持ってもらおうと、記事を発信できるSNS「note」を活用したオンラインマガジン「みるみる」を発行した。

 2021年の中教審の答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(令和答申)が目指す考え方と現行学習指導要領の関係を解説するとともに、個別最適な学びや協働的な学びに取り組む学校の実践事例を詳しく紹介するもので、詳細は教育新聞のニュース記事で読むことができる。

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