【教育課程を学ぼう(14)2つの“ゆとり”教育

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 国立教育政策研究所名誉所員・浦和大学特任教授 工藤文三
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 学習指導要領は1958年の告示以降現在に至るまで計7回の改訂を経てきたが、この中で〝ゆとり〟の言葉が用いられた改訂が2回ある。1回目は77年、2回目は98年の改訂である。

77年改訂における〝ゆとり〟のある学校生活

 77年の改訂は、(1)人間性豊かな児童生徒を育てる(2)ゆとりあるしかも充実した学校生活を送れるようにする(3)基礎的・基本的な内容の重視とともに個性や能力に応じた教育を行う――の3点を狙いに行われた。

 この狙いのうち、(2)の狙いを実現するため、それまで年間240日以上授業を行うよう計画するとの規定を削除するとともに、各教科の標準時数の削減を行った。小学校では第4学年で週当たり2単位時間、第5・6学年では4単位時間の削減を行い、総授業時数は従前の5821単位時間から5471時間(特別活動を除く)とされた。中学校では、音楽、美術、道徳以外の教科などで標準時数が削減され、中学校全体では従前の3535単位時間から3150単位時間とされた。これらの授業時数は、小学校、中学校とも、次の89年の改訂まで継続される。

 各学校では、児童生徒の在校時間を維持しながら、授業時数の削減によって生じた時数を、創意工夫を生かした教育活動に充てることができることとなった。この時間は「学校裁量の時間」「ゆとりの時間」とも称された。各学校では「〇〇タイム」といった名称の下に、運動・保健や飼育・栽培、音楽・表現・鑑賞、学習や生活に関する相談、勤労体験活動などに充てられた。この改訂における〝ゆとり〟の意味は、学習指導要領において教育内容を固定せず、各学校の創意工夫に委ねるという点にあった。

98年改訂における〝ゆとり〟のある教育活動

 21世紀を目の前にしたこの時期に、中教審は「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」とする答申(96年第一次答申)を行い、「知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育」から、「自ら学び、自ら考える力などの『生きる力』という生涯学習の基礎的な資質の育成を重視する」との提言を行った。

 改訂の狙いは、(1)豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚の育成(2)自ら学び、自ら考える力の育成(3)ゆとりある教育活動の展開、基礎・基本の確実な定着及び個性を生かす教育の充実(4)創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進める――の4点に置かれた。

 これらの狙いのうち、(2)について、小学校では各学年とも約70単位時間の削減を行い、6学年全体で従前の5785単位時間から5367単位時間とされた。中学校では各学年とも70単位時間の削減を行い、3学年全体で従前の3150単位時間から2940単位時間とされた。またこの改訂で、総合的な学習の時間が新設されたため、各教科の授業時数は例えば小学校国語の総授業時数は6学年の合計で、1601単位時間から1377単位時間と大幅な削減が行われた。中学校国語は、3学年の合計で455単位時間から350単位時間とされた。なお、02年度から学校週5日制が完全実施された。指導内容については、「授業時数の縮減以上に厳選し基礎的・基本的な内容に絞り、ゆとりの中でじっくり学習しその確実な定着を図る」(『小学校学習指導要領解説総則編』1999年)ことが目指された。この改訂における〝ゆとり〟教育の特徴は、自ら学び、自ら考える力の育成および総合的な学習の時間の新設に見られるように、新しい学力観を伴った〝ゆとり〟であった点にある。

 この改訂に前後して学力低下の世論が高まったがこの懸念を受けて、03年には学習指導要領の1部改訂が行われた。

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