小中学校における道徳教育の構造は、特別の教科である道徳を要として、学校の教育活動全体で行うこととされている。この道徳科については、小学校1学年を除いて、標準時数35単位時間が配当され、道徳科における学びが、学校の教育活動全体で行う道徳教育の要としての役割を担っている。このように道徳の時間が特別の教科とされたのは、2015年の学校教育法施行規則および学習指導要領の一部改正によってである。この改正に伴い、道徳科の検定教科書が作成・利用されることとなった。
道徳の時間から特別の教科道徳に改められた一つの背景に、いじめの防止の要請があった。
教育再生実行会議は13年、道徳教育を充実するため、教材の抜本的な充実とともに、道徳の時間を「道徳の特性を踏まえた新たな枠組みにより教科化」することを提言した。その後、14年の中教審答申では、道徳の時間を特別の教科道徳とすること、指導内容および指導方法、評価の改善充実、検定教科書の導入などが提言された。これを受けて、15年に学習指導要領の一部改正がなされた。内容項目のまとまりを示す視点A~Cについては、その順序を改めると同時に、内容項目の手掛かりとなる言葉を付すことが行われた。また、問題解決的な学習や道徳的行為に関する体験的な学習を重視するなど、考える道徳、議論する道徳への転換が図られた。さらに、指導要録について、「特別の教科 道徳」の記入欄が新たに設けられ、学習活動における児童生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子を、個人内評価として文章で記述することとされた。
教育課程を構成している教科は、言語、社会、数理、自然などのように取り扱いの対象に一定のまとまりがあり、それぞれの教科には専門科学による裏付けがあることが特色である。教科内容の真理性、正しさは関連する専門科学によって担保されている。また、教科によってやや異なるものの、指導内容が小中高と系統的に構成されていることも教科の特色である。学習評価は観点別評価および評定として、目標準拠評価の方法で実施されている。さらに、検定教科書の使用が義務付けられるとともに、中等教育段階はその専門性を踏まえて教科の免許状を必須としている。
このような教科の特色に対して、道徳科には次のような特色がある。内容に児童生徒の発達に応じて一定の系統性はあるものの、それぞれの道徳的価値について専門科学による共通した裏付けがあるわけではない。また、学習評価を教科と同様に、観点別評価および評定、目標準拠評価として実施することは適当ではないこと、道徳性の育成という性格から学級担任が担当することが望ましいこと、検定教科書の作成と供給は可能であること。
これらの事情から、道徳科は検定教科書の使用という点では、他の教科と同様であるが、道徳科の教員免許状を設けないこと、学習評価は個人内評価とすることの点では、教科とは異なる特性を持つこととなった。「特別の教科」とされたのは、これらの事情からである。