【神谷正孝の教育時事2023(9)】次期教育振興基本計画のポイント(2)答申のポイント整理(2)~用語や方針の理解

【神谷正孝の教育時事2023(9)】次期教育振興基本計画のポイント(2)答申のポイント整理(2)~用語や方針の理解
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kei塾主任講師 神谷 正孝

 皆さん、こんにちは。仙台を拠点とする教員採用試験対策専門スクールkei塾主任講師の神谷です。前回に引き続き今回も中教審「次期教育振興基本計画について(答申)」(2023年3月)をチェックしていきたいと思います。

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日本社会に根差したウェルビーイング

 ウェルビーイング(well-being)は、身体的な健康だけでなく、心理的、社会的な側面においても、生活の質が高い状態であることを指します。具体的には、現在の健康な身体、安定した精神状態、自己実現や自己肯定感、社会的な関係やつながりだけでなく、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福をも含んだ概念です。また、「個人のみならず、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念」であることが示されています(答申「2.・今後の教育政策に関する基本的な方針」)。

 ウェルビーイングの捉え方は一律ではなく、国や地域の文化的社会的背景によって異なります。答申においてもそのことが示されており、欧米においては、自尊感情や自己効力感の高さなど個人が獲得・達成する能力や状態に基づくウェルビーイングが重視されるのに対し、わが国では、欧米的な「獲得的要素」だけでなく、利他性、協働性、社会貢献意識など人とのつながりや関係性に基づく「協調的要素」が重要な意味を持つことが指摘されています。その上で、ウェルビーイングの獲得的要素と協調的要素を調和的・一体的に育む「日本発のウェルビーイングの実現」を目指すことが求められるとし、「調和と協調(Balance and Harmony)」に基づくウェルビーイングの考え方を世界的に発信していく必要性について言及しています。

 さらに答申では、教育においては学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要であるとしています。教師のウェルビーイングが高まり、学校が学びの土壌としてよい環境になることが、子供たちのウェルビーイングを高め、家庭や地域のウェルビーイングにつながるとしています。

基本コンセプトに基づく5つの方針

 前回解説した「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」という2つの基本コンセプトの下、第4期計画では図の通り5つの基本的な方針が示されました。

 今年の採用試験で出題されるとしたら、この基本方針の空欄補充問題が考えられます。5つの基本方針のキーワードについて答えられるようにしておきましょう。また、人物試験に向けて少し深く対策をするならば、初等中等教育に関係する「(1)グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成」「(2)誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進」の2点を中心に、答申の「2.・今後の教育政策に関する基本的な方針」で述べられている内容を読んでおきましょう。要点は、別掲の通りです。なお、答申の4.で示されている方針に基づく個別の政策については、確認しなくてもよいでしょう。

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 答申の中には、カタカナ語や英語の略語などの聞き慣れない言葉が多数登場します。今回解説した「ウェルビーイング」の他、「VUCA」「レジリエンス」「イノベーション」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「DE&I」などの言葉については、意味を押さえておきましょう。

5分でわかる教育時事2023 第9回 問題編

1.次の文章は中央教育審議会「次期教育振興基本計画について(答申)」(令和5年3月)の一部である。空欄に当てはまる語句の組み合わせを選びなさい。

Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針

(2)日本社会に根差したウェルビーイングの向上

○ウェルビーイングとは身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、( 1 )や人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含むものである。また、個人のみならず、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念である。

○ウェルビーイングの捉え方は国や地域の文化的・社会的背景により異なり得るものであり、一人一人の置かれた状況によっても多様なウェルビーイングの求め方があり得る。

○すなわち、ウェルビーイングの実現とは、多様な個人それぞれが幸せや( 1 )を感じるとともに、地域や社会が幸せや豊かさを感じられるものとなることであり、教育を通じて日本社会に根差したウェルビーイングの向上を図っていくことが求められる。

○ウェルビーイングの国際的な比較調査においては、自尊感情や( 2 )が高いことが人生の幸福をもたらすとの考え方が強調されており、これは個人が獲得・達成する能力や状態に基づくウェルビーイング(獲得的要素)を重視する欧米的な文化的価値観に基づく側面がある。同調査によると日本を含むアジアの文化圏の子供や成人のウェルビーイングは低いとの傾向が報告されることがあるが、我が国においては利他性、( 3 )性、社会貢献意識など、人とのつながり・関係性に基づく要素(( 4 )的要素)が人々のウェルビーイングにとって重要な意味を有している。このため、我が国においては、ウェルビーイングの獲得的要素と( 4 )的要素を調和的・一体的に育む日本発のウェルビーイングの実現を目指すことが求められる。こうした「調和と( 4 )(Balance and Harmony)」に基づくウェルビーイングの考え方は世界的にも取り入れられつつあり、我が国の特徴や良さを生かすものとして国際的に発信していくことも重要である。

○日本社会に根差したウェルビーイングの要素としては、「幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)」、「学校や地域でのつながり」、「( 3 )性」、「利他性」、「多様性への理解」、「サポートを受けられる環境」、「社会貢献意識」、「自己肯定感」、「自己実現(達成感、キャリア意識など)」、「心身の健康」、「安全・安心な環境」などが挙げられる。これらを、教育を通じて向上させていくことが重要であり、その結果として特に子供たちの主観的な認識が変化したかについてエビデンスを収集していくことが求められる。なお、( 4 )的幸福については、「同調圧力」につながるような組織への帰属を前提とした閉じた( 4 )ではなく、他者とのつながりやかかわりの中で( 5 )する基盤としての( 4 )という考え方が重要であるとともに、物事を前向きに捉えていく姿勢も重要である。

ア 1:生きがい  2:自己効力感  3:協働  4:協調  5:包摂

イ 1:生きがい  2:自己有用感  3:協調  4:協働  5:包摂

ウ 1:生きがい  2:自己効力感  3:協働  4:協調  5:共創

エ 1:精神的健康 2:自己有用感  3:協調  4:協働  5:共創

オ 1:精神的健康 2:自己有用感  3:協働  4:協調  5:包摂

カ 1:精神的健康 2:自己効力感  3:協調  4:協働  5:共創

2.次の文章は中央教育審議会「次期教育振興基本計画について(答申)」(令和5年3月)の一部である。空欄に当てはまる語句の語群から選びなさい。

Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針

(2)日本社会に根差したウェルビーイングの向上

○ウェルビーイングと学力は対立的に捉えるのではなく、個人のウェルビーイングを支える要素として学力や学習環境、家庭環境、( 1 )とのつながりなどがあり、それらの環境整備のための施策を講じていくという視点が重要である。また、社会情動的スキルやいわゆる非認知能力を育成する視点も重要である。さらに、( 2 )や社会を優先して個人のウェルビーイングを犠牲にするのではなく、個人の幸せがまず尊重されるという前提に立つことが必要である。

○子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要である。子供の成長実感や保護者や( 1 )との信頼関係があり、職場の( 3 )が保たれ、( 4 )環境などが良い状態であることなどが求められる。加えて、職員や支援人材など学校の全ての構成員のウェルビーイングの確保も重要である。こうしたことが学びの土壌や環境を良い状態に保ち、学習者のウェルビーイングを向上する基盤となり、結果として家庭や地域のウェルビーイングにもつながるものとなる。

○さらに、( 5 )・社会教育を通じて、( 1 )コミュニティを基盤としてウェルビーイングを実現していく視点も大切である。

○ウェルビーイングが実現される社会は、子供から大人まで一人一人が担い手となって創っていくものである。社会全体のウェルビーイングの実現に向けては、個人のウェルビーイングが様々な場において高まり、個人の集合としての場や( 2 )のウェルビーイングが高い状態が実現され、そうした場や( 2 )が社会全体に増えていくことが必要となる。子供たち一人一人が幸福や生きがいを感じられる学びを保護者や( 1 )の人々とともにつくっていくことで、学校に携わる人々のウェルビーイングが高まり、その広がりが一人一人の子供や地域を支え、更には世代を超えて循環していくという在り方が求められる。

語群

ア 地域  イ 社会  ウ 地域社会  エ 組織  オ 集団  

カ 心理的安全性  キ 人間関係  ク 労働  ケ 人的  コ 生活  サ 生涯学習  シ リカレント

3.次の文章は中央教育審議会「次期教育振興基本計画について(答申)」(令和5年3月)の一部である。空欄に当てはまる語句を書きなさい。

(5つの基本的な方針)

○本計画においては、上述の総括的な基本方針の下、以下の5つの基本的な方針を定める。

①グローバル化する社会の持続的な( 1 )に向けて学び続ける人材の育成

②誰一人取り残さず、全ての人の( 2 )を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進

③地域や( 3 )で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進

④教育デジタル( 4 )(DX)の推進

⑤計画の( 5 )性確保のための基盤整備・対話

解答

1 解答 ウ

2 解答 

1:ア(地域) 2:エ(組織) 3:カ(心理的安全性) 4:ク(労働) 5:サ(生涯学習) 

3 解答 1:発展  2:可能性  3:家庭  4:トランスフォーメーション  5:実効

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