日々の子供たちとの関わりの中で、その言動や様子からちょっとした変化を見逃さないのがプロの教師である。また、保護者の養育態度や言動の中に潜む異常さを察知するのもプロの教師である。
児童虐待は言葉での脅しなどの心理的虐待が最も多く、保護者が暴行で死亡させたり、食事を与えることなく衰弱死させたりする「せっかん死」などが後を絶たない。しかし、保護者の教育方針やプライバシー保護などが足かせとなり、家庭の問題まで踏み込めないのが現状であった。保護者による虐待が原因による子供の死亡事件などが相次ぎ、社会的な問題となるとともにこの虐待防止が行政および学校現場の喫緊の課題となっている。
国は、児童虐待防止等に関する法律(2000年制定)を制定し、第1条「児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与える」、第3条「何人も児童に対し、虐待をしてはならない」という考えの下、虐待を保護者の監護する児童(18歳に満たない者)に対する暴行、わいせつ行為の強要、無用な監禁、長時間の放置、食事を与えない、身体的・心理的に外傷を与えることなどと具体的に示した。
そして、教師などに対して、「児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない」(第3条)と、努力義務を課している。さらに、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は速やかに」、児童相談所などに「通告しなければならない」(第6条)とある。
児童福祉法も2022年6月に改正され、24年4月1日に施行される。第1条で「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない」とし、保護者の身ではなく、「すべての国民」に義務があることを定めている。また「市区町村に家庭支援センターを設置」「子供の意見聴取の仕組みを整備」「児童相談所による支援の強化」「虐待を受けた子供などの『一時保護』に『司法審査』を導入」「虐待の新資格『子供家庭ソーシャルワーカー』の導入」「児童養護施設の自立支援、 年齢制限を撤廃」などが改正のポイントだ。
児童虐待は、時には児童の生命にも関わる。学校では防止のための具体的で適切・的確な方策を立て、教職員が一丸となって取り組む体制を整えておくことが重要だ。そのためには、子供の言動の変化を見逃さず、また担任が知り得た虐待に関わる状況に対しては、情報収集と正確な情報の把握が大切だ。
▽虐待(疑いも含めて)の発見通報があった時どうするか。
(1)校内の専門委員会を招集し、状況調査や聞き取り調査などを早急に実施する。
(2)当該児童の状況や聞き取り調査から資料を作成し、教育委員会や児童相談所に一報を入れる。
(3)学校としての当該児童のサポート体制を整える。
(4)教育委員会や児童相談所と連携しながら保護者との面談、指導に当たる。
(5)外部機関からの通告に対しては、その指示に従い、情報を共有し迅速に対応する。
▽虐待への気付き、防止のために。
(1)虐待の具体的内容、法的なことなどの基礎的事項を研修などで共通理解する。
(2)子供の様子を観察し、傷やあざなどがないか、衣服の乱れや栄養状況など、気になることは常に十分に把握する。
(3)保護者との面談や日頃の連絡の中で、異常性や虐待に関するような言動がないかチェックする。
(4)異常な状態を発見したり、その疑いを持ったりしたときには、即座に管理職に報告し、管理職は迅速に関係諸機関と連携を図る。
虐待は「絶対に許さない決意」を全教職員が共有することが最も重要である。