埼玉県のある市立中学校での話である。修学旅行を数カ月後に控えたある日、強面の男性が校門の前に街宣車で乗り付け、「ある女子生徒の代理人」と称して校長室を訪問してきた。その生徒を「修学旅行に参加させよ」と言うのである。
その学校では髪の毛を染めないよう指導していたが、女子生徒は金髪に近い茶髪のまま登校し続けていた。そのため、修学旅行に参加したければ黒髪に戻すよう促していた。これに反発した女子生徒は「自称代理人」に相談し、その男が「茶髪のまま参加させよ」と校長に直談判しに来たのである。
この訪問を受けた校長は自称代理人の態度にたじろぎ、恐怖さえ感じたという。だが、ふと窓の外に目をやり、街宣車ではためく日の丸を見て良いアイデアが浮かんだ。そして、自称代理人に「修学旅行では京都御所も見学しますが、日の丸を崇める貴方たちから見て、茶髪で御所に行くのが良いことと思いますか?」と尋ねてみた。すると、自称代理人は少し考え込んだ後、「よし、分かった。黒髪に戻すよう伝えるから、参加させてもらいたい」と納得した。当然、校長はその旨を承諾し、参加させることを約束してこの件は収束した。
この場合、日の丸をヒントに校長が機転を利かせて対応し、解決の糸口を見いだした。誰にでもできる対応ではないが、この事例には一つ、重要なポイントがある。「代理人」と自称する人物に、学校として対応しなければならないか、という点である。親に代わる者などの「法定代理人」の場合、学校は代理人として対応する必要があるが、本事例のように代理人としての資格を有するか否か、不明な場合にはどうすべきであろうか。
原則として、代理人と自称するだけの人物には、学校は代理人として対応しなくてもよい。話し合いの過程で個人情報を持ち出される可能性があり、また学校としての対応が保護者の意に沿わないこともあり得るからである。
例えば、児童生徒の祖父母が、学校に苦情・要望を申し出てくることがよくある。そんな時、学校は「祖父母が保護者の代理で来校した」と思い込んで対応することが多いが、後になって児童生徒の保護者から、その対応についてクレームが寄せられることもある。
今回取り上げた事例では、校長が代理人と自称する人物に対応してしまったが、結果的には丸く収まり、保護者からのクレームもなかった。結論として、自称代理人に対しては、「代理人」としてではなく、単なる生徒の「関係者」程度の認識で対応するのが望ましい。ただし、その場合でも一定の結論を出すような対応は避けるべきである。