前回は、「標準」の家庭を前提とすることの課題を述べた。今回は母子家庭に焦点を当てつつ、家庭環境の急変について考えてみたい。
6月末に発表された5月の完全失業率(季節調整値)は2.9%。近年は下がり続けていたが、コロナ流行以来、上昇を続けている。就業者数は雇用形態にかかわらず前年同時期よりも減少し、正規職員・従業員が3534万人(1万人減)、非正規職員・従業員が2045万人(61万人減)となっている。仮に正規と非正規が同じ人数だったとすると、非正規の減少者数は正規の100倍に上る。非正規雇用下にある人々が、不安定な状況にあることが改めて浮き彫りになった。
もともと、日本では7人に1人の子供が「子供の貧困」状態である。母子家庭においてはおよそ2人に1人だ。その主な原因は、母子家庭の4割超がパート・アルバイトで収入を得ていること(厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査報告」)、離別した場合に子の父親から養育費を受け取れないケースが圧倒的に多いことである。
経済・雇用状況の悪化は社会全体に暗い影を落としているが、非正規の母子家庭には特に大きなしわ寄せがあったと推察される。そもそも日本社会における母子家庭は、「標準」の生き方から自ら外れた人々と位置付けられ、国際的に見ても非常に乏しい支援しか受けられておらず、制度的に大きな課題がある。
お金の使い道も保護者の教育方針によって異なり、そこに格差が見いだされるようになる側面はある。しかし、経済格差の拡大に対しては、不利益を被った家庭に、何よりもまず補填(ほてん)されなければならない。
「コロナ離婚」という言葉も登場してしまったが、実際に子供たちにそういう事例があったと耳にする。経済状況だけでなく、家族の変化が子供にもたらす影響は大きいものである。
今、家庭が子供たちにとって安心して過ごせる居場所になっているか。コロナ休校やオンライン授業では家庭が学習の場になるわけだが、それどころではない子供たちもいる。子供だけでなく、親にもストレスがかかり、虐待の増加も指摘されている。休校期間の過ごし方や家庭学習における「家庭の力」がクローズアップされるほど、家庭に頼ることの限界も見えてくる。
「教育」は個々の家庭の私的な営みではあるものの、極めて公共的な営みでもある。個々の経験の違いに格差が生まれるほど、学校は子供の個々の経験を共通の経験へと組み替える共同的な場として、これまで以上に大きな価値を有するようになるだろう。