米国モンテッソーリ公共部門国立センターによると、全世界にモンテッソーリの学校は約2万校あります。米国では5000校に上り、そのうちの500校は公立校ですが、依然として少数派です。Webサイト「イデー・モンテッソーリ」によると、日本にはモンテッソーリ教育実践施設が約700カ所あります。日本全国に約3万7000カ所の保育所があることを考えると(厚生労働省、2020)、ごくわずかです。さらに小学校になると、日本でモンテッソーリ教育が受けられるところは数校しかありません。
これだけの認知度があるにもかかわらず、モンテッソーリ教育が市民権を得ていない理由は、大きく分けて二つあると考えられます。一つ目は理解度の不一致によるプログラムの希薄化、 二つ目は教育価値のズレです。
一つ目は、モンテッソーリ教育に対する理解度が、校長や実践者によって異なるために、プログラムの質が希薄化しているということです。例えば、アメリカン・モンテッソーリ協会(AMS=American Montessori Society)の2019年の調査によると、カリフォルニアのモンテッソーリ公立校の校長のうち、モンテッソーリの教員資格所持者はわずか14%にすぎません。根本的理論の知識が欠けていれば、公立校に求められる指導要綱と折り合いをつけながら、質の高いモンテッソーリのプログラムを提供することは難しくなります。
また、認知度が高い国際モンテッソーリ協会(AMI=Association Montessori International)とAMS以外にも、モンテッソーリ教員のトレーニング法が数多く存在するため、教師間での理解度やアプローチが異なり、一貫性が維持できていない現状もあります。
次に、従来教育との価値観のズレです。モンテッソーリ教育のゴールは、自律性と社会の一員としての自覚を育むことです。子どもたち自身がコミュニティの在り方を決めるため、大人が決めたルールの強要はしません。そのため、時間割やテストもありません。
また、一人一人の個性と意見が大事にされているため、「みんな同じ」を期待することはありません。特に、日本においては個人の気持ちよりも、全体の利益が優先される傾向が強く、自律性を重んじるモンテッソーリ教育の導入において、大きな壁になっています。
もちろん、モンテッソーリ教育においても、個人が周囲を顧みないで好き勝手にやっているわけではありません。コミュニティをより良いものにするために、相互の意見を交換し、共通のビジョンを見つけて協働しながら対話をすることが求められています。