本連載ではここまで、ABAの考え方に基づいた、子供の行動の捉え方を紹介してきました。今回は、子供への支援の前提となる、「信頼関係」をどう築くかについて、ABAに基づいて考えていきたいと思います。
信頼関係とは、「お互いに信じ、頼り合える関係」です。筆者は支援する際、「この人と関わると、良いことがある」と子供が感じられている状態が、重要だと考えています。この状態ができて初めて、支援者側も「指示をしたらきちんと取り組んでくれた」「分かってくれた」という経験を重ねていくことができるのです。
「先生の言うことをよく聞きましょう」という言葉はよく使われますが、この言葉の背景には、指示を「する・される」という一方的な関係ではなく、図のように相互に強化(行動を増やす働き)されていく関係があることが分かります。
信頼関係を築くためには、子供に「先生の話を聞いたら、良いことがあった」という経験をどんどんさせてあげることが重要です。具体的にどうするか、事例をもとに紹介していきたいと思います。
ある学校に、授業中に無断で教室の外に飛び出て、体育館に遊びに行ってしまう中学生がいました。先生が理由を聞くと、「じっとしているのが無理」「授業がつまんない」「授業が分からないし受けても仕方ない」と言います。現在は、教室の外に飛び出るのを止めるためにもみ合いになったり、追い掛けるために授業が中断してしまったりと、ネガティブな循環が繰り返されている状態です。
先生とその生徒との関係も悪化しつつあり、注意をすると怒って教室を出てしまい、きちんと話し合う機会もなかなか持てません。生徒も先生も、皆が困っている状態でした。
しかし2カ月後、その子は担任の先生と約束した時間、教室にいられるようになり、全体的に先生の言うことをよく聞いてくれるようになりました。話し合って、「次はどうしていこうか」と、目標を決められるようにもなりました。いったいどのような関わりを行ったのでしょうか。
前提としてまず行ったのは、「授業が分からない、参加したくない」という根本的な問題へのアプローチです。苦手な科目や課題を見極め、こまめに援助を行い、授業について来られるようにサポートしたり、得意な問題で指名して活躍の機会をつくったり、教材をカラフルにしてキャラクターを使ったり、さまざまな工夫を行いました。しかし、悪化してしまった関係を良いものにしていくには、これだけでは十分ではありません。
次回は、「信頼関係」を築くための具体的な声掛けについて考えます。