「職員会議で議題を挙げても発言してほしい人が発言してくれない」
こんな経験は研究主任なら誰しもあるのではないでしょうか。今回取り上げる「Agency」と「心理的安全性」が、そのお悩み解決の糸口になるかもしれません。
現行の学習指導要領では「資質・能力」が中心的に語られています。では、この資質・能力を発揮するためには何が必要でしょうか。
OECDの「Learning Compass2030」では、2030年に望まれる社会のビジョンとそれを実現する主体としての生徒像と資質・能力を示しています。ここで取り上げられた概念が「Student Agency」です。Agencyについて少々乱暴な説明をすると、スパイ映画で見られるエージェントの性質を想像してください。計画的に他者と協働しながらミッション(課題)の解決に取り組もうとする主体性を指します。
なぜ、Agencyが必要かと言うと、いくら資質・能力を磨いたとしても、本人が課題に対して自律的・主体的にアクションを起こせなければ資質・能力は発揮されず、世界は何も変わらないからです。教員にもこのAgencyが求められています。生徒のAgencyを育むためには、教員も自らの可能性や創造性を発揮する姿を見せる必要があります。
しかし、学校には個々のAgencyの発揮を阻害する要因が数多く存在します。例えば、ベテランと若手の関係性とそれに伴う教育観の違い、教科担任制やクラス担任制という組織的に課題を共有しにくい仕組みなどです。それらが無意識のうちに「どうせ何も変わらない」という思い込み(固定観念)となって心の中で高い壁を形成しています。それぞれの持つ可能性(創造的衝動)が阻害されているのが、現代の多くの組織の課題となっています。
そして、個人がAgencyを発揮するためには心理的安全性が不可欠です。いくら、理想的な学びの形への思いがあったとしても、それを後押ししてくれるチームがなければ、Agencyは発揮できません。同調圧力を強く感じる日本社会において、自己責任論から脱し、より良い課題解決に向けたチーム内の建設的な対話や議論は不可欠です。
誤解されがちですが、心理的安全性はストレスのない環境を指す言葉ではありません。成果を上げる組織という前提の上で互いの可能性を引き出し合える関係性を指します。つまり、忌憚(きたん)なく互いに建設的な意見を出し合い、成果につなげる場に心理的安全性があるということです。
個々のAgencyとそれを後押しする心理的安全性。この2つを効果的に高揚させるのが対話型ワークショップです。では、どの方向へ進むことが必要でしょうか。組織として進むべき方向を共有できているでしょうか。次回は、学校が見失いがちな「目的」を考えてみたいと思います。