子どもが不安を感じているときには、実際の行動にも変化が生じています。例えば、登校するのに不安を感じている子どもであれば、学校はもちろん、それに関連する刺激を避けるという行動が最も典型的です。こうした行動を回避行動と呼びます。回避行動は不安を示す子どもの行動変化の中で最も特徴的なものと言えるでしょう。
この回避行動は不安の悪循環において、主たる役割を果たします。不登校の要因として最も多いのは「無気力・不安」であることを以前の回で紹介しました。そこで、不安のために不登校になっている子どもの例を取り上げて「回避行動のわな」について説明したいと思います。
例えば、学校に朝行くためには、8時に家を出ないといけないとします。子どもは起きる時間になってもなかなか起きてきません。「早く起きないと学校に間に合わないよ」と母は伝えますが、お腹が痛いと言って布団から出てこないのです。母は仕事のために同じく8時に家を出ないといけません。そのため、慌ただしく自分の支度をしながら、朝ご飯と昼ご飯を準備して、「早く起きなさいね」と言って8時に家を出て行きます。やがて、子どもは布団からのそりと起きてきて、朝ご飯を食べて一人で1日を過ごします。
さて、この間、この子どもにはどのような変化が起きているのでしょうか。不安の対象に関する手掛かりは、近づけば近づくほど不安が高くなります。これが朝学校に行く前にはピークに達することになります。そのため、布団から出てこない子どもの不安は、学校に行く時間に近づくとどんどんひどくなっています。不安は身体症状を伴うことを以前の回で説明しましたが、つまり、同時に実際にお腹が痛くなっているのです。
やがて学校に行くべき時間が近づくわけですが、突如として学校に関する刺激は消え去ります。母が家から出て行ったからです。母がいなくなった瞬間、子どもに学校に行くように伝える刺激はなくなります。その瞬間、高まっていた不安も減少します。「今日も学校に行かずに済んだ」と考えて、ほっとするわけです。
この「高まっていた不安が減少する」という経験は、子どもにとってはとてもインパクトのある経験になります。嫌な感情から逃れられるというのは、人の行動傾向を強くします。すなわち、次の日も同じ行動を取る確率を高めるということです。学校に行くことについての不安が高ければ高いほど、ほっとする程度は強くなってしまい、この回避行動がもたらす偽りの安心によって、不安の悪循環から抜け出せなくなってしまうわけです。