【「頼るスキル」の磨き方(1)】今なぜ「頼るスキル」が必要とされているのか

【「頼るスキル」の磨き方(1)】今なぜ「頼るスキル」が必要とされているのか
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 私が大切にしているのは、子どもたちが主体的に社会に関わる中で自分の能力を発揮し、幸せだと感じられる人生を周囲の人と共に歩んでいくことです。そのために、人に頼る力(受援力)を身に付け、主体的な社会参加のために他者と一緒に課題解決をすることで、自己効力感を高めることのお手伝いができればいいなと考えています。

 私は「受援力」の必要性と学び方について、これまで200以上の地域や組織で講演や研修を行ってきました。その内容は『社会人に最も必要な「頼る」スキルの磨き方』(KADOKAWA)という書籍にまとめられています。本連載では、その中から教育現場で役立つと思われるものを厳選してお届けします。

 受援力という言葉は、他者に助けを求め、快くサポートを受け止める力として、2010年に内閣府が「ボランティアを地域で受け入れるためのキーワード」としてパンフレットにまとめ、東日本大震災後に広まり始めた言葉です。私はこの言葉を初めて聞いた時、頼ることができるのはある種の能力であり、この力を伸ばすことができるという捉え方に、強く触発されました。「老人力」や「鈍感力」と同じように、「受援力」も「持っていると役に立つ」というイメージを与えることで、「頼って当たり前」という雰囲気の醸成につながると感じたのです。

 「自分はこれまで、人に頼らず一人でコツコツ成し遂げてきた」と言う人もいることでしょう。そうして人に頼っては駄目だと思っていると、他の人に相談する人に対し「どうしてこの人は苦労しないのだろう」「甘えている」と考え、人を助ける気持ちにはなれません。

 でも、人にSOSを出して助けられ、感謝の気持ちを抱いたことがある人ならば、力になってくれた人のことを大事に思い、「自分も誰かの役に立ちたい」と思うはずです。そして、相手の表情や雰囲気からその人が困っていることに気付き、どんな言葉を掛ければ相談しやすくなるかが分かるはずです。

 コロナ禍で生活様式が大きく変わったことで多くの方々が今もなお人とつながる機会を失い、大きなストレスを抱えているのではないでしょうか。皆さんも、体の不調や心の不安を感じながら「大変なのはみんな一緒」「自分より大変な人がいる」「自分だけが甘えていてはいけない」などと、一人でつらさを抱え込んでいないでしょうか。

 孤立に直面する人とその人たちを支援する人がどうやってつながればいいのか。人と人との距離感、つながる手段を図りかねている今だからこそ、身に付けたいのが受援力です。本連載では、学ぶ場でこれまで顧みてこられなかった「頼るスキル」について、教員や子どもたちが身に付ける方法などをお届けします。

【プロフィール】

吉田穂波(よしだ・ほなみ)神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授。1998年三重大学医学部卒業。聖路加国際病院で臨床研修の後、2004年に名古屋大学大学院医学系研究科で博士号を取得。その後ドイツとイギリスで産婦人科および総合診療を学び、帰国後は産婦人科医として女性総合診療に従事。10年、ハーバード公衆衛生大学院にて公衆衛生修士号を取得した後、安倍フェローシップを得て同大学のリサーチフェローとなり政策研究に取り組む。11年の東日本大震災では妊産婦や新生児の救護に携わる傍ら、災害時の母子保健整備の必要性を感じ、人材育成、政策研究やガイドラインの作成に関わるなど、母子保健レベルの向上に尽力。国立保健医療科学院、神奈川県で母子保健領域の公共政策研究と人材育成に携わった後、19年より現職。著書に『「時間がない」から、なんでもできる!』(サンマーク出版)、『受授力を身につける「つらいのに頼れない」が消える本』(あさ出版)、『社会人に最も必要な「頼る」スキルの磨き方』(KADOKAWA)ほか多数。4女2男の母。

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