運動会当日の朝、「若手は6時くらいに出勤して早めに準備しておくこと」という不文律があった。午前6時、始発に乗っても間に合わない。だから車を持っている先生に乗せてもらったり、家が近くの先生とタクシーを乗り合わせたりして、なんとか間に合うように出勤していた。そして他の先生が出勤する7時くらいまでには、ほとんどの準備を終わらせていた。余裕をもって当日の朝を迎えられることはうれしかったが、集合時間が「6時」であることの意味は年々よく分からなくなっていき、「結局、何時集合なんだろうか。もし、遅れたらどんな目で見られるのだろうか」と不安になりながら出勤していた。
だが、ある年は違った。7時に出勤したベテランの先生が状況を見るなり、こう言ったのだ。
「これは一体どういうことですか?お子さんがいて、保育園の関係とかで7時出勤だって大変な先生がいるんです。そういう人が『いつも準備を他の先生にしてもらっているから、せめて当日だけは一緒に準備がしたい』と思って、いろんな人にお願いして必死に7時に出勤しているんです。そうやって出勤してこの状況だったらどう思いますか?それなら最初から集合時間を変えてください。来年度は、この朝の準備の件、ちゃんと考えましょう」
頭を強く打たれたような気がした。そうか、自分が良かれと思ってやっていたことが時に他の人の仕事を奪ってしまったり、一緒に気持ち良く働くためにやっていたことで他の人を申し訳ない気持ちにさせてしまったりすることがあるのかと。どんなに頑張っても早く来られない人のことまで想像できておらず、恥ずかしさでいっぱいになった。
その次の年度の運動会前日の打ち合わせ。校長先生から「管理職と体育主任は実施判断のため6時半出勤、その他の職員は7時出勤です。その後一斉に準備をしますので、7時より前に出勤しても準備はしないようにしてください」というお話があった。それで準備がバタバタしたかというと、そんなことは少しもなかった。全教職員と地域の方とで一緒に準備をしたからすぐに終わった。何よりみんなで準備した達成感があった。
気付いた人が気付いたときに、できる人ができることを。そういう姿勢が大切で、そういう動きが必要なときもある。しかし、どんな個人的な状況があったとしても、チームの一員であることに変わりはない。だから、できる限り一緒にやりたい。一緒にできるチャンスがあるならなおさらだ。
一人一人の状況を大切にするためにも、やっぱり時間って大切なんだと思う。終わりの時間も、始めの時間も。