【教職員のウェルビーイングを問う(1)】ウェルビーイングという発明

【教職員のウェルビーイングを問う(1)】ウェルビーイングという発明
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 ウェルビーイングという語をよく目にするようになりました。個々人が感じる快適さ、社会全体としての幸福、より良く生きるという規範など、捉え方はさまざまです。

 中央教育審議会の議論にも登場しています。「次期教育振興基本計画について(答申)」(2023年3月8日)では、「『持続可能な社会の創り手の育成』と『日本社会に根差したウェルビーイングの向上』という2つのコンセプトのもと」との表記がなされ、「第11期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理~全ての人のウェルビーイングを実現する、共に学び支えあう生涯学習・ 社会教育に向けて~」(生涯学習分科会 22年8月)といったように、タイトルになっている場合もあります。

 多用は悪いことではありませんが、この語の真意は私たち一人一人の生き方と社会の在り方を問い、前に進むことを促すものです。私は「個人と社会の多元的・可変的な幸福を追求する状態や態度」と定義できると考えています。そのため、前に進んでいくことの方針や手だてを伴うことが必要です。そうでなければ、一過性の片仮名語に終わってしまうでしょう。

 方針や手だての必要性とともに、この語を国際的課題として位置付けたのはOECD(経済協力開発機構)です。ここでは手続きにおける政治と、知的基盤としての学術がうまく取り込まれています。今日流布しているウェルビーイングは、OECDによる発明とも言えます。

 まずは08年、フランスのニコラ・サルコジ大統領により、GDPを単一指標とすることの課題克服を検討する「経済成果と社会的進歩の測定に関する委員会」が設置されました。委員会には委員長のジョセフ・スティグリッツの他、アマルティア・セン、ジェームズ・ヘックマンなどのノーベル経済学賞受賞者が多数加わり、厚生経済学の知見を基に、多元的指標から測定されるウェルビーイングが提案されました。その審議結果を活用する形で、11年にOECDが、創立50周年を機とするパラダイム転換と称してウェルビーイング追求を宣言したのです。

 指標群は、「現在のウェルビーイングの重要領域」として、①収入と富②労働と仕事の質③住居④健康⑤知識と技能⑥環境の質⑦主観的ウェルビーイング⑧安全⑨仕事と生活のバランス⑩社会的つながり⑪市民参画――となっています。加えて、「将来のウェルビーイングのための資源の重要領域」として、自然資本、経済資本、人的資本、社会的資本も提示されています。これらについて、日本の指標の値はどうなっているのでしょうか。次回お伝えします。

【プロフィール】

本図愛実(ほんず・まなみ)1967年生まれ。岐阜県出身。99年より宮城教育大学教育学専任講師、2013年より宮城教育大学教職大学院教授。専門は教育の制度・経営。研究テーマは教員政策と教職員・学校の在り方。編著書に『日本の教師のウェルビーイングと制度的保障』(ジダイ社23)、『グローバル時代のホールスクールマネジメント』(ジダイ社21)、『新・教育の制度と経営(四訂版)』(学事出版23)

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