前回は物理的な環境について見ました。「子どもたちと教師が安全にもとる施設で過ごしてよいのか」という国民的認識を高めるためにも、学校の活動と成果をより開かれたものとし、風通しが良く、効率的・効果的に成果を出すことができる職場であるべきだと考えます。皆さんの職場はいかがでしょうか。ガバナンスの名の下に、上意下達の意思決定が行われ、教育活動の質を落とす非効率的な状態になっていないでしょうか。子どもたちには社会的な課題解決を目指す探究的な活動を課しているのに、教師集団が職場の課題解決を目指せていないようでは、子どもたちへの指導も薄っぺらなものでしかないと言わざるを得ません。若手もベテランも参画できる組織風土であることは、教師のウェルビーイングの大前提です。
一人一人の教師が自律的に学校の意思決定に関わっていくことの重要性は、リーダーシップ研究によっても支持されています。その代表的なものに、分散型リーダーシップとサーバント・リーダーシップがあります。分散型リーダーシップとは、活動の現場により近いところで組織意思決定を行うなど、意思決定の分散を図ることで、組織目標を効率的・効果的に達成することを目指します。サーバント・リーダーシップとは、構成員一人一人の目標達成のための心理に寄り添うこと(サーバント)で、組織全体の目標を達成しようとします。分散型リーダーシップは意思決定の外形的な仕組みであり、サーバント・リーダーシップはリーダーとフォロワーの関係性に焦点を当てています。
分散型リーダーシップからは、場面リーダーというリーダーシップも派生します。学校で言えば、場面に応じて採られるリーダーシップであり、例えば校務分掌が挙げられます。たとえ若手であっても、学校組織の一員として任される校務においては、リーダーシップを発揮することが望まれるのです。
サーバント・リーダーシップは、内発的動機付けの有用性を重視し、自律的な成長を導こうとするもので、人材育成の場において有効です。その内実は、リーダーによる期待により短期・長期の目標が達成されるとともに、専門職としてのアイデンティティーが形成されていくことです。
拙論文「サーバント・リーダーシップで捉える教育長像:期待によるアイデンティティーの形成」(2023,宮城教育大学紀要57,pp.97-109)では、そのような働き掛けを行ったX自治体のA教育長とその下で、人材育成に力を発揮した校長たちについて分析しています。サーバント・リーダーシップの連鎖において、その自治体全体の学力は向上し、知事が「X自治体は学力が高い」と発言したり、不動産の広告で学力の高い街であることが宣伝文句になったりするなど、X自治体についての好印象が地域社会において増幅されていきました。学校を快適な空間にするには、サーバント・リーダーシップがもたらすような、期待と信頼によるつながりも不可欠なのです。