【教職員のウェルビーイングを問う(10)】社会的資本としての「社会に開かれた研究」~プラットフォームとなり得るか

【教職員のウェルビーイングを問う(10)】社会的資本としての「社会に開かれた研究」~プラットフォームとなり得るか
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 本連載もいよいよ最終回となりました。前回お伝えしたように、公正という社会的価値の実現において、教育の成果を分析・開発・波及、そして分析へと連鎖するような、教師による研究とはどのようなのものか、実例を見てみましょう。

 「社会に開かれた研究」は、子どもの成長を模索する教師たちの協働を促すものでなければなりません。つまり、その研究がプラットフォームとなり、仲間たちの実践と研究を刺激し、発展をもたらすものなのかという問いも重要になります。

 例えば、教職大学院の院生でもあるA先生の研究(小学校)は、プラットフォームとして、全国および自治体の学力・学習状況調査による教育データの活用と学校が持つ多様な資源を見直し、利活用することを位置付けました。学力調査の結果の分析から示される学力と学習状況の課題を明らかにし、それらの課題克服について、当該学年だけでなく全学年で無理なく取り組めるような仕掛けを管理職の支援の下で行いました。朝の時間のAIドリル活用、前学年までの既習事項の復習を充実させる単元計画と授業実践、学ぶ意欲を高めるための探究的な学習の見直し、養護教諭が持つ情報を活用した学習状況調査における課題への対応、教材として使われなくなってしまった学校隣接の森の再活用、などです。その上で、対応の進捗(しんちょく)状況や好例についての情報を季刊で教職員に提供し、全教職員から「提供された情報が自らの活動の改善につながっている」との返答を得ました。

 新たな取り組みに意欲を見せた高学年担任と共に行った森を題材にした学習では、A先生が大学で学んだp4c(話し合いの手法の一つ)の活用を担任に提案したことで、子どもたちは課題を解決しようと問いを立て、方策を話し合い、地域の人や他学年の児童にも関わりながら発信していこうとするようになりました。以前の学力調査では子どもたちの自己有用感が高くありませんでしたが、活動開始から1年後のアンケートでは、全員が「地域や社会をよくするため何かしてみたいと思うことがある」という質問に「そう思う」と答えるようになりました。

 B先生の研究では、インクルーシブな学年経営のための情報共有と協働をプラットフォームとし、毎時間の指導状況を複数の教育支援員と学年担任たちが即座に共有できるシートを開発しました。C先生の研究では、県外募集を行うことになった高校において、生徒や保護者に選ばれる学校づくりをプラットフォームに置き、先行事例や地域動態を分析・数値化して随時情報提供を行い、同僚たちの地域教科開発を支援しました。

 こうした子どもや教職員たちを奮起させようとする研究は公共財であり、ウェルビーイングを導く光であると思います。

 (おわり)

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