【学力格差のメカニズム (5)】学力格差のメカニズム③ 補償的有利

【学力格差のメカニズム (5)】学力格差のメカニズム③ 補償的有利
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 前回は、学力格差が生まれるメカニズムとして、「マタイ効果」という言葉を紹介しました。これは「有利な人はますます有利に、不利な人はますます不利に」という好循環・悪循環のプロセスが、初期段階の小さな格差を、時間の経過とともに大きな格差に拡大・増幅させる現象を指す概念です。

 今回はこのマタイ効果のうち、悪循環(負のスパイラル)の現象について考えてみたいと思います。マタイ効果の悪循環のメカニズム、つまり「低学力→授業が分からないから学習意欲が湧かない→勉強しないからますます学力が低くなる」というような負のスパイラルの現象は、全ての子どもに一律に生じるものなのでしょうか。結論から述べると、こうした悪循環にはまりやすいのは、教育的資源の少ない低SES(社会経済的背景)層の子どもであると主張したいと思います。

 ある市内で得られた学力調査データを筆者が分析したところ、次のことが明らかになりました。すなわち、中学校の段階では、低SES層の生徒は成績が下がると学習時間を減らす傾向にあるが、中・高SES層の生徒は成績が下がっても学習時間を減らすことはないということです。

 これは学力格差のメカニズムを考える上で、極めて重要な結果です。なぜなら、低SES層は「成績が下がる」という経験が学習意欲の低下につながりやすい一方で、中・高SES層はたとえ成績が下がったとしても、意欲を失うことなく引き続き勉強に励み続けることができることを意味しているからです。低SES層は学習面で悪循環にはまりやすく、中・高SES層は悪循環から逃れやすいとなると、学力格差は時間の経過につれて、次第に拡大していくことが予想されます。

 ここで重要なのは、ある「不利な経験」(今回の例では「成績が下がる」という経験)に対して、中・高SES層はその「不利な経験」を乗り越えやすい一方で、低SES層はその「不利な経験」の悪影響を受けやすいということです。このように、恵まれた家庭環境の人々は、「不利な経験」を穴埋め(compensatory)するような有利さ(advantage)を持っていることに着目した格差のメカニズムは、補償的有利(compensatory advantage)という概念で知られています。

 たとえ成績が下がったとしても、諦めずに勉強をし続けることが大切ですが、諦めずに勉強をし続けるためには、周囲の人たちの教育的サポートが不可欠です。しかしながら、低SES層の子どもたちは、そうしたサポートを十分に受けられていません。学力格差の拡大を食い止めるためには、こうした格差のメカニズムを踏まえた上で対策を講じる必要があります。

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