【学力格差のメカニズム (6)】学力格差の解消に向けて何ができるか

【学力格差のメカニズム (6)】学力格差の解消に向けて何ができるか
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 本連載ではこれまで、学力格差が拡大するメカニズムをマタイ効果(有利・不利が累積し、好循環・悪循環が生まれるメカニズム)という概念を使って見てきました。さらに、学習面での悪循環のプロセスは、不利な家庭環境にある低SES(社会経済的背景)層の子どもたちに降りかかりやすいことも確認してきました。

 こうした学力格差の拡大メカニズムを踏まえるならば、格差縮小に向けた教育実践を進める上で、どのような取り組みが求められるのでしょうか。

 まず思い付くのは、早期介入です。学習過程にマタイ効果が存在するということは、一度勉強が苦手になり、嫌いになってしまえば、悪循環に陥ってしまい、そこから脱することが難しくなります。それを避けるためにはやはり、学校教育の初期の段階で格差の縮小に向けた実践に力を入れ、子どもたちを好循環の過程に導くことが有効でしょう。

 ただし、早期介入のみで問題は解決しません。たとえ初期段階の学力格差が縮小されたとしても、マタイ効果のメカニズムが、初期段階の格差を時間の進展とともに大きな格差に拡大・増幅させてしまうからです。

 そのため、初期段階の格差の縮小を目指すと同時に、子どもの学年段階が上がる節目節目において、繰り返し格差の縮小を推し進めるような取り組みが必要になってきます。学校教育において「学び直し」の機会をいかに確保することができるか、言い換えれば一度学習につまずいた子どもが、「もう勉強したくない」という気持ちを切り替えて、「もう一度勉強を頑張ってみよう!」と思えるような「区切り」をいかに確保できるかということです。

 こうした「区切り」が、例えば小学校から中学校に移るとき、一つ上の学年段階に上がるとき、新しい単元の授業内容に入るときなどの場面に盛り込まれていれば、子どもたちはマタイ効果の悪循環をリセットし、気持ち新たに頑張ろうとする「きっかけ」を得ることができます。

 以上を踏まえると、学習における「積み重ね」の重要性を強調することは、子どもにとってマイナスに作用する危険性もあることが分かります。というのは、「こつこつ頑張りなさい」というメッセージは、頑張り続けている「できる子」をエンパワーするのに対し、勉強についていけない子どもたちに対して「今から頑張ってもどうせ無駄かもしれない」という思いを引き起こし得るからです。

 それを避けるためにも、「今日の授業は今までと違うぞ」「これなら自分もできるかも」という思いを引き出すために、「今からでも大丈夫」というメッセージを教師が伝えるとともに、それを可能にする学習の機会を提供することが大切となってくるでしょう。

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