戦争は人だけではなく、動物、植物にも影響を及ぼす。そこに生きているもの全てに作用する。それも人を含む生物全体、生態にマイナス(負)的に働き、悪影響を及ぼす。
その代表が空襲であろう。1945年3月10日の東京大空襲、同年8月6・9日の広島・長崎の原爆投下は、その代表的なものである。原爆は本連載の第1回で紹介した『はだしのゲン』などの作品で取り上げられている。空襲も第1回で紹介した神戸大空襲を描いた『火垂るの墓』などの作品で取り上げられている。
空襲の規模では、東京大空襲が極めて大きかった。この様子をアニメーション映画にしたのが、『アゲハがとんだ』(2019年、東映)である。このアニメ映画は、昭和20(45)年3月10日午前0時ごろに始まった東京大空襲を主題に、子どもたちが悲しい体験をする姿を描くとともに、学童疎開、軍楽隊の行進、灯火管制の状況、焼夷(しょうい)弾などを説明し、戦争の悲惨さを表している。
主人公は東京の下町に住む国民学校6年生の木村サトルである。サトルは空襲を避けるため同級生と田舎に学童疎開していたが、卒業間近になり東京へ戻る。そうした中で、東京が大空襲を受ける。
サトルと同級生の四郎や良子、妹の園子ら子どもたちの友情を描いている。サトルは虫好きで、疎開先で見つけたアゲハのサナギを東京に持ち帰り、もうすぐ羽化してアゲハになるのを楽しみにしている。
しかし、3月10日の大空襲で、四郎や良子、妹の園子も亡くなってしまう。サトルは亡きがらとなった良子の手の平にアゲハのサナギを置く。すると、廃墟となった東京の上空に羽化したアゲハが舞い上がり、きらきらと美しく輝きながら空に飛び、消えていく。
『アゲハがとんだ』は空襲の残酷さを映像的に示すとともに、登場人物が小学生であるために、子どもたちにも分かりやすい。その上、ところどころで難しい用語はナレーションで説明されている。東京大空襲の規模の大きさ、被災して亡くなった人の多さを示すとともに、アゲハの飛翔を通じて希望を表現している。
また、アゲハの成長が人の成長を表すとともに、友達や妹の死を描くことで、人を含む動物の生態を併せて表現している。戦争はそうした動物の生態をも破壊することとその悲しさをアニメ映画『アゲハがとんだ』は表している。