本連載では「今求められる子どもの『居場所』とは」というテーマで、全10回にわたり日本の子どもを取り巻く現状や子どもの居場所づくりの実践について紹介する。筆者は、日本の子どもの貧困問題の解決のために活動する認定NPO法人Learning for All(以下、LFA)の代表を務めている。そんな私が日々、現場の子ども支援を行う中から見える現状を皆さんにお伝えしたい。第1回は「困難を抱える子どもの現状」について紹介する。
昨今、日本において子どもの貧困問題が注目されている。厚労省の2019年「国民生活基礎調査」によると、子どもの相対的貧困率(※)は13.5%であり、実に日本の子どもの7人に1人が相対的貧困であることが明らかになっている。これは約260万人の子どもが貧困状態にある計算になり、またひとり親世帯に限ると約2人に1人の子どもが貧困状態に置かれている。これは他のOECD諸国と比較しても高い水準となっており、日本における子どもの貧困問題は非常に深刻だと言える。
子どもの貧困は教育格差を通じて、次世代の経済格差や貧困の連鎖を生み出すことも指摘されている。既にさまざまな研究においても明らかになっているが、世帯の経済状況と子どもの学力や学習意欲には相関があり、貧困世帯の子どもたちほど学力形成・学習意欲が低くなり、学校教育からの早期のドロップアウトや学力形成の不足につながりやすい。つまり、経済格差が教育格差につながり、さらに世代を超えた「格差の再生産」につながるのである。
「貧困」と聞くと、まず「経済的困窮」をイメージする人も多いかもしれない。しかし、貧困世帯の子どもの多くは、単なる経済的な困窮状況にとどまらず、極めて多くの不利や困難を同時に抱えている。具体的には、児童虐待、不登校、発達障害、親の精神疾患、ヤングケアラーなど、さまざまな不利や困難を生み出す要因を複数抱えているのである。LFAの独自調査において約200人の生活困窮世帯の子どもたちの抱える困難の分析をしたところ、上記のような困難因子を2つ以上抱える子どもたちが全体の8割を占めていることが分かった。「子どもの貧困」とは、単なる経済的な困窮のみならず、複雑な不利や困難を子どもに強いることで、子どもの将来の可能性を狭める問題なのである。
※相対的貧困:その国の水準の中で比較して、大多数よりも貧しい状態のことを指し、所得で見ると、世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない状態。厚労省の「19年 国民生活基礎調査」による相対的貧困の基準は、世帯年収127万円となっている。
【プロフィール】
李炯植(り・ひょんしぎ)特定非営利活動法人Learning for All 代表理事。1990年、兵庫県生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。これまでにのべ1万500人以上の困難を抱えた子どもへの無償の学習支援や居場所支援を行っている。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事。18年「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」、22年「内閣官房のこどもの居場所づくりに関する検討委員会」の検討委員に選出。