ありがたいことに入学前から、学校現場で想定できる限りの「合理的配慮」を考えていただくことができたわが家。家庭でも、考えられる限りの入学前準備をすることにしました。一般的な入学の準備以上に、考えなくてはならないことはたくさんありました。まず、自宅で実践したのは、ランドセルを開け閉めする練習。客観的にその状況を見たら、ランドセルを開けられないような子が普通学級へ進んで本当にいいのかと思ってしまいます。
夫婦と次男で向かった文房具店でも、座り込んで長い時間をかけて一つ一つの持ち物を選びました。筆箱一つとっても、開けやすいか閉めやすいかを片っ端から試す。クレヨンは持ち手の付いたものにする。力が弱くても操作しやすいステープラーやハサミを探す。
それらの創意工夫は小学6年生となった今でも続いていて、最近では「使いやすい名前ペン」としてノック式を導入しました。使いやす過ぎて、先日は筆箱の表側に思い切り落書きをされてしまいました。「ペンは鉛筆と違って消えないのよ」と、使い方だけではなく、用途についてももっと説明しなくてはと思ったところです。
ご縁とタイミングと、皆さまの協力があって選択することができたダウン症のある次男の普通学級への道。学校サイドと家庭サイドで考えられる限りの準備を尽くし、もしかしたら他のピカピカの1年生たち以上に、緊張してその第一歩を踏み出しました。そう、私たち夫婦だけが。当の次男は、何も知らないままでした。
これまで支援型幼稚園という、手厚くてまるで温室のような場所でヌクヌクと過ごしてきた次男にとって、小学校の普通学級はのんびり草をハムハムしていた草食動物が、サバンナのど真ん中に突然放り出されたようなものだったのかもしれないということは、入学式を終えた早々に気付きました。そもそも人数が圧倒的に多い。
式が終わって教室に戻り、子どもたちによる先生への初めての「さようなら!」の大合唱を見届けることができたのですが、その教室にいるはずの次男の姿を見つけることができたのは、ずっと後のこと。教室を飛び出し、廊下いっぱいにあふれ出た子どもたちは、まるでバッファローの群れをほうふつとさせました。
ドーッ!というごう音と、立ち込めた砂埃が消え去った後、ようやく見えたポツンと立ち尽くしていた次男の姿。メガネはナナメにズレていました。これでは、バッファローの群れに紛れ込んでしまった1匹の子羊です。
「こんな世界の中で、本当にやっていけるのだろうか」
不安しかない普通学級での学校生活の始まりでした。