コロナ禍で国が要請する新しい生活様式では大人が豊かに学ぶ必要がある。感染症に対する正しい情報を収集し、デマにだまされずに判断する力、リモートワークなどの新しい労働環境に適応する力、家庭で過ごすための家事スキルなどを身に付け高める必要があるからだ。子育て家庭では子供への関わり方を学ぶ必要がある。子供が学校へ行けない時の保護者の関わり方の違いが子供の学習・学力格差をもたらすからだ。確かに、厚労省の「21世紀出生児縦断調査」を見ると、家庭学習を全くしない子を減らすには「勉強する時間を決めて守らせている」よりも「勉強したかを確認している」という関わり方が効果的のようだ。保護者には「やらせる」働き掛けよりも「やったことを認める」働き掛けを身に付けられる学びの場が必要なのである。「働き方改革」は時間外労働の上限規制、年次有給休暇の確実な取得などを推進し、大人が学ぶ時間をつくり出そうとしている。しかし、2016年の国の「社会生活基本調査」によれば、「主に仕事」している人の1週間の平均学習時間は2分、「家事などの傍らに仕事」している人は5分、仕事をせず「家事」をしている人は0分である。日本の大人には学習する習慣がないと言ってよい。そこで提案したいのは、第一に、子育てや家庭での学習支援に関する教育学的内容を学べる機会を増やすことである。教育学の知見が子育てに関わる幅広い人々に共有されるように、教育学研究の懐(ふところ)を広げ、教育学の語り部を増やすことが求められる。第二に、公民館や大学などの無料または低料金で受講できる公開講座などが、子供家庭福祉とも連携しつつ、子育て家庭のニーズを踏まえた内容、オンラインによる学習とも組み合わせた開講方法など、働く大人が学びたくなるよう工夫することである。第三に、働く大人の学習の場としての学校の利活用である。小学校の放課後は放課後児童クラブや放課後子供教室の場となっているが、加えて大人たちの自主的な学びの拠点として利活用するとよい。さらに、学校教員も専門職として学び続ける必要があるのはもちろんだが、一人の大人として多様な学びを経験してほしい。子供たちの「学びのモデル」となるように。