文科省の科学技術・学術政策研究所による「科学技術指標2022」によれば、引用された優れた論文数でみると、わが国は2018年から20年の平均で世界12位となり、初めて10位を下回った。ちなみに、1位は中国、2位がアメリカ、6位がオーストラリア、7位がインド、11位が韓国である。
1997年から99年の平均では、わが国は4位だった。つまり、他国と比較した場合、研究開発力が年を追うごとに低下してきている。これは大変な事態と言わざるを得ない。
その原因として、研究開発費の伸び悩みや、研究者が安定した正規の職を得ることが難しいことなどが考えられると言われている。しかし、これに加えて別の原因もあるのではないか。というのは中国やインドはともかく、人口でわが国の4分の1以下、研究開発費もわが国より少ないオーストラリアに、はるかに及ばないのはなぜか。
研究開発力と関係するのは、理科(科学)での思考力や判断力、探究能力である。これらの能力の育成について、オーストラリアとわが国の大学以下の学校教育のカリキュラムと、評価の在り方、特に評価規準を比べるとその違いに驚くのである。
例えば、わが国の小学3年生の理科の思考力などの指導内容について、学習指導要領では実質的に「差異点や共通点を基に、問題を見いだし、表現している」と述べているだけであり、4年生では「既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説を発想し、表現している」とあるだけで極めて簡単である。
これに対してオーストラリアのナショナル・カリキュラムの評価規準は、科学的な問題について、学年が上がるにつれて、問題の特定の仕方や問題の科学的な探究方法をどのように進歩させるべきかが詳しく書かれている。発見したことや得られたデータの分析、傾向やパターンの発見、結論についての批判的な検討能力、表現能力の進歩の段階など、思考力などについて広い範囲にわたり、学年が上がるごとにどう進歩させるべきかを示している。
わが国では思考力などについて一部しか考えておらず、進歩の段階も部分的にしか示されていない。オーストラリアの研究開発力がわが国をはるかに上回る原因はここにもあると考える。