本稿に向き合っている今、エジプトでCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)27が開催されています。ウクライナでの戦争をきっかけに起こった食料やエネルギー危機の最中、紆余曲折が心配されますが、持続可能な社会づくりに対する課題認識は世界で深まっています。
私はこれまで、本欄で持続可能な開発のための教育ESDや気候変動教育CCEについて述べてきました。これらのゴールは、環境や社会が持続可能とするための価値観の育成と行動変容にあります。行動変容というと、省エネやごみの分別など個人のライフスタイルの変容が思い浮かぶと思いますが、教育の役割としては、個人変容にとどまらず、社会変容につながる取り組みを考えさせ実践させることが重要です。
このような中、注目したいのが「気候市民会議」です。2019年にフランスで始まり、イギリスやEU各国などで実施され、日本でも札幌市(20年)や川崎市(21年)を皮切りに、複数の区市で実施または計画されています。
取り組み内容は、住民基本台帳などを活用して数万から数千人の市民に会議への参加を呼び掛け、希望した市民が専門家の説明を受けながら、話し合いを通して意見を形成し、まとめた提言を自治体の施策に反映させるものです。日曜日の半日を6回(川崎市)、2泊3日(イギリス)など時間を掛けて行います。
話し合うテーマは、(1)脱炭素の将来像(2)エネルギー(3)交通(4)住居(5)食と農業(6)都市づくり(7)ライフスタイル――などがあり、国や都市の実情に合わせて憲法改正や財政(フランス)もありました。
気候民主主義という方もいらっしゃいますが、無作為抽出で社会の縮図(ミニパブリックス)をつくり、熟議を重ねて市民の考えとして政策に取り入れるこのような手法は、危機に向き合い変革のための手法として改善しながら、定着することが期待されます。
話し合うことと、合意形成を図り協働することが民主主義の基礎ですが、学校教育でもESDやCCEでも話し合う活動は不可欠です。テーマは異なるものの授業や学級会も話し合って課題解決を図ります。児童生徒が課題を見つけて話し合い、活動する学びの延長線上に気候市民会議があるように思いました。教師には、話し合いを深めるコーディネーターとしての力量が求められているのです。