東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)特任助教
最後に、子どもの読書、特に紙とデジタルの問題について、改めて考えてみましょう。子どもの育ちを支える大人たちの多くは、それが教師であれ保護者であれ他の立場であれ、読書が子どもにもたらす豊かな恩恵を信じ、子どもにもっと本を読んでほしいと願っているはずです。だからこそ私たちは、デジタルメディアの魅力に病みつきになっている子どもたちを見ると、「スクリーンばかりでなく、本も読んでくれればいいのに」などと考えます。そこには、「スクリーンと読書」「デジタルと紙」という対立構造が、暗黙のうちに顔を出しているのです。
前回の「デジタルトラスト」に続き、今回はもう一つ聞き慣れない、しかし重要な言葉を紹介したいと思います。それは「デジタルダイエット」です。これは、ケンブリッジ大学のエイミー・オーベン博士が提案した、デジタル技術の利用を食事に例えて理解しようとするアプローチです。
前回、教育におけるデジタルの活用において、子どもと関わる大人のデジタルリテラシー向上が重要な課題であると述べました。この取り組みの中で一つの鍵になる言葉が「デジタルトラスト」です。
教育におけるICT活用において、日本は諸外国から大きく後れを取っていましたが、「GIGAスクール構想」により1人1台端末が急速に普及し、ハード面の環境はある程度整いました。
紙とデジタルの対立を乗り越えたところに、子どもと読書のどんな新しい関係が見えてくるのでしょうか。本連載の後半では、紙とデジタルの共存、融合によって開かれる新たな可能性と課題について考えていきたいと思います。
前回、子どもの読書にとって紙とデジタルのどちらが良いのかは、子どもを対象に調べてみないと分からないと述べました。そして実際、子どもを対象にした研究はこれまで数多く行われてきました。それら先行研究の結果を総合して言えるのは、子どもにとっての紙とデジタルの優劣を示すはっきりした証拠は現時点ではないということです。結果が一貫しない大きな理由は、「紙対デジタル」という比較が大ざっぱ過ぎるということです。
前回述べたように、子どもたちの適切なデジタルメディア利用を促しながら発達をサポートしていくことが、現代の大人や社会の大きな課題になってきています。子どもの発達を促進する良質なデジタルコンテンツとして、電子書籍の利用を対象とした研究結果があることも紹介しました。一方で、子どものデジタルメディア利用については、それが発達に悪影響をもたらすのではないかという懸念も根強くあります。本連載は、今回から数回に分けて、子どもの「デジタル読書」の現状、「デジタル読書」が子どもに及ぼす影響、読書とデジタルのより良い関係について述べていきたいと思います。
現代の子どもの多くは、本に触れる時間の何倍もの時間をデジタルデバイスとともに過ごしています。東大CEDEPとポプラ社が2021年に行った調査では、幼児の家庭におけるスクリーンタイムは平日で約2時間、休日では3時間近くにもなりました。今や10歳児の61.4%、15歳児の96.4%が、自分専用のスマートフォンを所有しています。個人専用の端末を持つことによって、小学生以降、スクリーンタイムはさらに増加していきます。
読書が人の心を豊かにする活動であることを疑う人はあまりいないでしょう。特に子どもにとって絵本や本との触れ合いは、その成長をさまざまな面から支えている大切な活動だと広く信じられています。
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(東大CEDEP)と株式会社ポプラ社は、2019年に共同研究「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクトをスタートさせました。私は20年からこの共同研究プロジェクトに参加し、現在までさまざまな研究に携わってきました。本連載では、この共同研究プロジェクトから得られた知見も紹介しながら、デジタル時代の子どもと読書の関係、これからの読書推進の課題と可能性などについて考えていきます。
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