第9回 デジタルダイエット

第9回 デジタルダイエット
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 前回の「デジタルトラスト」に続き、今回はもう一つ聞き慣れない、しかし重要な言葉を紹介したいと思います。それは「デジタルダイエット」です。これは、ケンブリッジ大学のエイミー・オーベン博士が提案した、デジタル技術の利用を食事に例えて理解しようとするアプローチです。

 「ダイエット」と聞くと、デジタル利用の制限・減量のようなものをイメージする方がいるかもしれませんが、そうではありません。英語のdietが元々「食べ物」「食生活」を表すように、デジタルダイエットはまさにデジタル「食生活」のことです。

 例えば、食べ物には多くの種類があり、体に良いものや悪いもの、子どもは摂取を控えた方が良いものなどがあります。同様にデジタル技術にも、私たちに良い影響をもたらすもの、悪い影響をもたらすもの、子どもにとって不適切なコンテンツなどがあります。また、どんな食べ物でも適正な摂取量というものがあるように、良質なコンテンツでも長時間視聴し続ければさまざまな弊害が生じます。良質でないコンテンツを長時間見続けることは、さながら体に悪い食べ物を大量に食べるようなものかもしれません。このように、デジタル利用を食生活のように捉えると、その利用において気を付けるべきことが理解しやすくなるというのがデジタルダイエットの考え方です。

 デジタルダイエットの観点からデジタル技術の利用を考えたとき、最も重要なのは「バランス」です。食事と同様、デジタル技術には実に豊富なバリエーションがあります。多様なデジタル活動を適量かつバランス良く取り入れることが、心身の健全な成長を促しつつ、デジタルを活用するさまざまな知識やスキルの獲得にもつながっていきます。

 しかし、連載第7回でも述べたように、日本の子どもたちのデジタル利用は低年齢児ではテレビを含む動画視聴が極端に多く、年齢が上がるにつれてゲームやSNS利用も多くの時間を占めるようになります。そして、教育的な目的で使われる時間が少ないという特徴があります。食生活と同様、偏ったデジタルダイエットは見直していく必要がありますが、デジタルダイエットの観点からは、単に「量を制限する」というアプローチが不適切であることも分かります。

 子どものデジタル利用に関しては、従来からスクリーンタイムに関するガイドライン(1日の視聴時間は○時間以内など)が重視されがちでした。しかし、本当に重要なのは、どのような活動をどのくらいするかというバランスなのです。子どものデジタル利用の極端な制限は、デジタル社会を生き抜く力が育つ機会を奪うことにもつながりかねません。

 食生活と同様、子どものデジタル利用においては、年齢に合った「食べ物/活動」、子どもにとって今必要な「栄養/コンテンツ」の摂取が必要です。子どもの好みを知ることも大切ですし、少し苦手な食べ物に挑戦するためにさまざまな工夫をすることも大事でしょう。また、子どもと同様に、私たち自身のデジタルダイエットも見直してみる必要があるかもしれません。

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