第1回 子どもの読書研究の現在

第1回 子どもの読書研究の現在
【協賛企画】
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 東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(東大CEDEP)と株式会社ポプラ社は、2019年に共同研究「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクトをスタートさせました。私は20年からこの共同研究プロジェクトに参加し、現在までさまざまな研究に携わってきました。本連載では、この共同研究プロジェクトから得られた知見も紹介しながら、デジタル時代の子どもと読書の関係、これからの読書推進の課題と可能性などについて考えていきます。

東大CEDEP×ポプラ社「子どもと絵本・本に関する研究」ロゴマーク
東大CEDEP×ポプラ社「子どもと絵本・本に関する研究」ロゴマーク

 東大CEDEPとポプラ社は、共同研究の目的として「子どもをとりまく読書環境の実態や、子どもの発達における読書の意義について科学的アプローチによって明らかにし、デジタルメディア時代の絵本・本の新たな価値を発見すること」を掲げています。「子どもにとって読書は大事な活動である」ということに同意しない人はまれだと思います。読書が意義深い活動であることは自明であり、それを今さら大層な「科学的アプローチ」などによって明らかにする意味があるのかと疑問に思う方もいるかもしれません。

 しかし、私たちが子どもの読書について「常識」と考えていることの中には、最近まで科学的な裏付けに乏しかったものが多く含まれています。例えば、読書は子どものさまざまな能力の発達を促進すると信じられています。読書が文字の読み書きや読解力など、言語能力の発達を促進することは古くから知られていましたが、他者の気持ちを理解する能力や社会生活におけるさまざまな決まり事に関する知識などの非認知能力の発達との関連についてのエビデンスは、最近まであまり多くありませんでした。

 また、子どもがデジタルデバイスを長時間使用することが発達に悪影響を与えるという印象を持っている人も多いと思います。読書に関しても、子どもはなるべく紙の本を読むべきであって、デジタルデバイスで電子書籍を読むことはネガティブに捉えられがちです。しかし、紙とデジタルの違いが子どもの読書にどのような影響をもたらすかに関するエビデンスは多くなく、特に日本ではほとんど知られていません。

 東大CEDEPとポプラ社は、これら読書の「常識」について科学的に検証し、子どもの読書の未来に資する基礎的データを提供することを目指して共同研究に取り組んでいます。本連載では現代の子どもが置かれた環境の実態とともに、絵本・本の価値に科学的に迫るさまざまな知見を紹介していきます。

【プロフィール】

佐藤賢輔(さとう・けんすけ)東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)特任助教。1981年生まれ、新潟県岩船郡神林村(現村上市)出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は言葉のコミュニケーションと社会性の発達。2015年に日本発達心理学会より学会賞を受賞。20年より東大CEDEPとポプラ社の共同研究プロジェクト「子どもと絵本・本に関する研究」に参加し、子どもの絵本・本およびデジタルメディア環境の実態や発達への影響に関する研究に従事。

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