【演じ、表現する教師】 虹色に込めた教師の仕事の多様さ

 大阪市立豊仁小学校の松下隼司教諭は演劇の経験を授業づくりに生かし、誰でも発表しやすい学級づくりに取り組んでいる。昨年には絵本を2冊出版するなど、学校の内外で多様な活動をしている。インタビューの2回目は、絵本の一冊『せんせいって』の執筆の経緯を中心に、教師の仕事をなぜ絵本で伝えようと考えたのかを聞いた。(全3回)

この特集の一覧

表現活動を取り入れて誰でも発表しやすく

――授業に表現活動などを取り入れているのでしょうか。

 たくさん取り入れています。例えば、私の授業ではとにかく子どもたちに発言してもらいます。基本的には挙手ではなく、指名してどの子にも発表してもらいます。そのため、子どもたちは集中して授業に取り組みます。

表現活動を随所に取り入れているという松下教諭

 かつては、発表の仕方について指導することもありましたが、だんだんとやらなくなりました。今は自然に発表させています。とはいえ、「自然に発言して」と言っても簡単にはできないので、例えば、「隣同士で話すことも発表だよ」と伝えています。昨日の晩ご飯を教え合ったり、昨晩の寝た時間を教え合ったり、それを「早く言った方が勝ち」としてみたりします。

 グループで前に出て発表する場合には、「3分」あるいは「1分」などと制限時間を設定します。するとすぐに発表が始まるようになります。時間を長くすると、前に出てから打ち合わせが始まってしまうんですよね。

 発表が終わったら必ず「コメントタイム」を取ります。それも「甘口コース」と「辛口コース」があります。甘口の場合は、子どもたちから「〇〇さんの発表がよかった」などのコメントが出ますし、辛口の場合は「私はこうした方がいいと思います」などの意見が出てきます。

 ただ意見を求めると、子どもたちは優しいので良いところを見つけるだけになってしまいます。でも、「甘口コース」と「辛口コース」を設ければ、厳しい意見も出しやすいし、勉強になります。そうしたこともあって、子どもたちは学級会をとても楽しみにしています。

――それでもやはり、発言したり話したりするのが苦手な子はいると思います。

 そうですね。そこでよくやるのが暗唱です。子どもたちにいろいろなセリフを暗唱してもらいます。「武蔵と小次郎」とか「ロミオとジュリエット」とか。すると、子どもたちも普段の学校生活では見せないような、感情を込めた姿を見せてくれることがあります。暗唱をするときは気持ちを切り替えるんですよね。この実践をしてからというもの、子どもたちは感情的になった後の気持ちの切り替えが良くなりました。

「教師の仕事を伝えたい」との思いで絵本を出版

――昨年、『ぼく、わたしのトリセツ』と『せんせいって』の2冊の絵本を立て続けに出されました。経緯を教えてください。

昨年出版した絵本2冊とともに

 出版されたのは『ぼく、わたしのトリセツ』が6月で、『せんせいって』が9月でしたが、先に着手したのは『せんせいって』の方です。新型コロナウイルスのために学校が臨時休校になった2020年3月ごろ、自分の気持ちを子どもたちに伝えたいと思って文章を書き始めました。もう一つの『ぼく、わたしのトリセツ』は、学校での子ども目線の楽しいエピソードをまとめました。どちらも楽しさを前面に伝えたいと思って、絵本という形を選びました。

 それで、出版社に企画書を送りました。『せんせいって』の絵を描いてくださった夏きこさんも、自分で探し出した人です。絵本ですから文章よりも絵の方が大事だと思って、絵だけで引き付けられるようにしたいと考えました。そんな絵を描いてくださる方を探していたところ、出会ったのが夏さんです。同じ関西の方で、しかも小学生のお子さんがいて、PTAの副会長を務めたこともあるなど、学校のこともご存じでした。

――『せんせいって』の全体のプロデュースも自身で全てされたのですね。

 この本は、教師の仕事や生活の様子を、チーターや犬、ミツバチなどの動物に例えながら、いろいろな側面があることを子どもたちに伝えていく内容です。

 実を言うと、当初は教育書のような教員が読む本の原稿を書いていたんです。でも、なかなか良い文章が書けず、絵本という形にすることにしました。

 SNSをやっていると、最近は教師のつらい話ばかりが流れてきます。私も共感はしますが、読んでいてもしんどくなるだけで、教師を辞めたいという気持ちが大きくなるんじゃないかと思います。

 昨今は教師の大変さを報じるニュースも飛び交っていますが、一方で子どもの「なりたい職業ランキング」では毎年、学校の先生が上位に入っています。なぜ、上位に入るのかと言えば、実際に全国の先生が頑張り続けているからです。そのことをちょっとでも伝えたいと思いました。

 私が教員になった頃と比べて、今は悪い意味で変わってしまったと思っています。例えば子どもがけがをしたとき、当時の方が今より子どものことを心配していました。今は子どものことよりも、その後の保護者対応とか管理職への報告などを考えてしまう自分がいるんです。子ども同士のトラブルの場合もそうです。

 教員になりたての頃の方が、休み時間や放課後に子どもたちと遊んでもいました。今は「働き方改革」で少しでも早く学校を出るために、放課後の仕事を休み時間にするなんてこともあります。若い頃はそんなことは関係なく、子どもたちと遊んでいました。絵本はそんな思いも込めて書きました。

易しい言葉で、今の教師の仕事を描く

――文章は易しい言葉で書かれていますが、本音の部分もちゃんと書いてあって、今の学校現場を忠実に描いているなと思いました。

「教師の仕事のしんどさと同時に素晴らしさも伝えたい」と語る

 「先生の仕事は楽しい」だけなら、やはりうそだと思うんです。最終的に、教員の仕事は一つの色ではなく、虹色なのだと表現しました。実を言うと、最初は虹色ではなくゴールドと書いていました。教員はやっていられないほどしんどいときがあり、先生方に「金」だと言い聞かせるという意図だったのですが、最終的にはいろいろな側面があるという意味で虹色にしました。この絵本では、主人公の先生自身が悩みながらも最後は原点に戻って、「先生の仕事ってやっぱり虹色」というところにたどり着くような感じになっています。

――どんな人に読んでほしいと思って書かれたのですか。

 主として子どもたちに、学校の先生の気持ちを知ってもらいたいと思って書きました。あとは大学生ですかね。教師を志望する人が増えてほしいとの思いがあります。

 休憩時間もないし、残業代もない。それでも、そんなこととは関係なく、多くの教員が子どものために一生懸命働いています。それは魅力的な仕事だからにほかなりません。怒ったり笑ったり泣いたり感動したり、教師の仕事は演劇みたいで楽しいですし、感情も豊かになります。

――クラスの子どもからは、絵本についてどんなことを言われましたか。

 私はしゃべるのが得意じゃないので、子どもたちには絵本を書いたことは特に話していません。でも、教室にはこっそり置いていて、子どもが休み時間にチラチラと読んでいたりします。何か伝わっていたらいいなと思います。

(大川原通之)

この特集の一覧

【プロフィール】

松下隼司(まつした・じゅんじ) 1978年、愛媛県松山市生まれ、奈良教育大学卒業。大阪市立豊仁小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回読売教育賞で優秀賞を受賞。2021年に『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、『せんせいって』(みらいパブリッシング)の2冊の絵本を立て続けに発刊。関西の小劇場を中心に演劇活動もしている。今夏、東洋館出版社より、教師も子どもも楽しく過ごせる学級を目指す「楽級経営」についての書籍を刊行予定。

あなたへのお薦め

 
特集