「移民の子供の増加」「学力の低下」「教員不足」に直面 ドイツ

「移民の子供の増加」「学力の低下」「教員不足」に直面 ドイツ
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小学生のドイツ語と算数の力が低下

 ドイツの教育界も、他の先進諸国同様に深刻な「教員不足」に直面している。それに加えてドイツ特有の問題である「移民や難民の子供たちの増加」と「学力の低下」がある。これら3つの問題がそれぞれ絡み合い、ドイツの教育問題をより複雑なものにしている。

 まず学力の低下を見てみよう。10月にIQB(教育制度の質開発研究所)が『教育トレンド2021』を発表した。IQBは、教育文化大臣常任会議が設定した初等教育のドイツ語読解力と算数力の標準基準を、4年生がどの程度達成しているかを調査している。最初の調査は2011年、2回目は16年に行われており、今回の調査は3回目となる。IQBの調査結果では、4年生のドイツ語読解力と算数力の双方で、標準基準に達しない児童の割合が大幅に増加していることが明らかになった。

 同調査は21年4月から8月の期間のデータを使って分析している。調査結果によると、4年生の約40%が標準基準を満たしていないことが明らかになった。同調査報告は「標準基準に満たない児童の比率は16年以降、さらに高まっている」とし、「児童の落ちこぼれリスクが大きくなっている」と指摘している。

 一方で興味深いのは、「ドイツ全体ではジェンダーの学力格差は11年と16年と比較しておおむね安定しているが、数学は16年以降、わずかに拡大している」ことだ。具体的には、ドイツ語能力で女子は男子より高いスコアを達成しているが、数学では逆に「男子は女子より平均で25ポイント高い能力スコアを達成している。

増加する移民家族の子供

 こうした学力低下の理由の一つに、移民や難民の家族の子供たちの増加がある。21年の時点で、その比率は4年生全体の38%に達している。11年は24%、16年は33%であり、比率は確実に増加している。ドイツで生まれていない子供の比率も16年には4%であったものが、21年には11%にまで増えている。難民や移民家族の子供の低学力の背景には、難民や移民家族の社会的、経済的な地位が低いこと、両親の教育水準が低いこと、家族が非ドイツ語言語を話すことがある。同調査は、低所得に伴う学習環境の悪化に加え、家庭内でドイツ語を話さない子供が多いことが、低学力の要因と考えられると指摘している。

 こうした調査結果に関連して、シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州のカリプリエン教育科学文化大臣は「長期の学校閉鎖や遠隔授業が、学習パフォーマンスに悪影響を及ぼしたと考えられる。特に社会的に恵まれない家庭の子供や移民の背景がある子供が大きな影響を受けている。そうした児童に対する対策が遅れていることが明らかになった。また、ドイツでは幼児セクターへの投資が少な過ぎる。幼稚園では、特に教育言語としてのドイツ語の習得、および数学の分野での先駆的なスキルに焦点を当てる必要がある」と強調している。

 バーデン・ヴュルテンベルク州のテレサ・ショッパー青年・スポーツ大臣は「調査結果のポイントは、あまりにも多くの児童が基本的なスキルで最低基準に達していないことだ。社会的に恵まれない家庭の子供、また特に移民の背景を持つ子供たちの成績が悪いという事実は、教育の公平性に関して、私たちがまだやるべきことがたくさんあることを示している。基本的なスキルを強化するための、質の高い科学に基づくプログラムを通してのみ、成功することができる」と、ドイツの教育界の課題を指摘している。

深刻な教師不足―15ポイントの解決策の提言

 小学生の学力低下の背景には、教員不足があることは明らかだ。児童が標準基準に達するためにはきめ細かな教育が不可欠である。だが、教育現場では人手不足が常態化している。ドイツでも他の先進国と同様に、教員は若い人にとって魅力のない職場になっている。

 GEW(教育科学連合)のアニア・ベンジンガー理事は、学力低下の背景には「教員不足、州間での賃金格差、大規模なクラス、教員のサポート制度の欠如、教員に対する不十分な訓練がある」と指摘している。GEWの推計では、生徒数の増加もあり、教員不足は2万人から2万5000人に達している。公立学校では教員の未充足率は10%に達している。

 また教員の質の問題も深刻である。例えばベルリンでは、新学期が始まった時点で、フルタイムの教員ポストの約600が空席のままだった。新規採用の教員の3分の1は教員育成プログラムを完了していない。新規採用の教員の半数は教員資格もなく、一時的な臨時雇用であった。

 こうした教員不足に対応するために、GEWは『教員不足に対応する15ポイント』という提言を行っている。具体的には、労働時間の短縮、少人数制のクラス、教員に対するサポート制度の確立などである。同提言では「学校により良い人員を配置し、教育はオーダーメードでなければならない」と指摘し、さまざまな専門家で構成されるマルチ・プロフェッショナル・チームを構成して、教員を支援することを提案している。また、教員にとって非専門的な分野である、管理業務などを担当する専門家を組織し、「教員を非専門的な作業から解放する」必要性を訴えているほか、オンザジョブトレーニング制度の確立や、若手教員のメンターを務める教員に対する担当授業の軽減措置導入などを盛り込んでいる。

 現在、ドイツが抱えている問題は国際化が進めば、どの国も避けて通れない問題だ。教育の多様性を維持しながら、それぞれの国の独自の文化的なアイデンティティーをどう維持するかが、大きな問題となってくるだろう。

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