子供を主語にした学びを~木村泰子氏の教育改革(上)

子供を主語にした学びを~木村泰子氏の教育改革(上)
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[vc_row][vc_column][vc_column_text]教育改革ばかりが独り歩きして、どんなに頑張っても、成果や手応えを感じられない。そんな思いを抱き、もがいている学校や教員が多いのではないか――。映画『みんなの学校』の舞台である大阪市立大空小学校の初代校長として、現場からの教育改革に取り組んできた木村泰子氏は、今の教育現場に大きな危機感を抱いている。第1回は、退職後の講演活動で見えてきた学校現場の苦しみや、子供たちの10年後に必要な力について聞いた。全3回。

学校は何をする所なのか
――2015年3月に大阪市立大空小学校(大空小)の校長を退任し、現在は講演を中心に活動されています。いま、どんな問題を感じていますか?

退任後の3年間で講演活動などを通して、北海道から離島まで47都道府県全てに行きました。その中には子供が自殺して亡くなってしまったり、何人もの子供が不登校の状態にあったりなど、さまざまな問題を抱えている学校もあります。学校によって抱える問題はさまざまです。でも、まずは「学校は何をする所なのか」という問いに、現場の教員が、自分で納得する答えを持たなければいけないと感じています。学校は「先生が教える所」ではなく「子供たちが学ぶ所」です。「働き方改革」ばかりが注目されていますが、本当に必要なのは「学び方改革」ではないでしょうか。終わらない仕事を家に持ち帰って、見かけ上の勤務時間を短くしても、教員は苦しくなるだけでしょう。そんな時間ありきの改革よりも、子供が学べているかどうかを考えることの方がよほど大切です。

――今の学校や教員はどう見えますか?

保護者対応は大変だし、上からは学力を上げろと言われる。その上、プログラミングも英語もやれと言われるし、そうこうしているうちに、学校に来られない子供も増えている。すでに学校も教員も限界を迎えています。子供は何のために学ぶのか。その目的がどこかにいってしまっています。現状を例えれば、栓をしていないたるに次から次へと水が注ぎ込まれ、全部流れ出てしまっている状態です。だから、働けど働けど成果が見えない。こうした状況が、学校がブラック企業と言われるゆえんではないでしょうか。今、日本社会にはあしき空気が充満しています。その空気を吸っているのは、子供たちです。あしき空気を吸って大人になれば、あしき空気を「生きて働く力」にしてしまいます。こんな危機的な状況はありません。

新学習指導要領は教育変革のラストチャンス
――そのあしき空気を、どう変えていけばよいのでしょうか。

20年から順次実施される新学習指導要領を、変革のチャンスにできるか。私はこれがラストチャンスではないかと思っています。新学習指導要領で求められている学びは、「主体的・対話的で深い学び」です。つまり、実社会で生きて働く力を付けるためのカリキュラムを作ればよいわけで、この学びの軸が今の学校には必要です。ここでスイッチを切り替えられなかったら、このあしき空気は変わらないと思います。

――今の公教育においては、まだ子供たちが実社会で生きて働く力を付けられていません。

私は若手教員を集めたセミナーにも、よく参加させていただいています。そこで「学校は何をする所?」と聞くと、ほとんどが「学力を付ける所」と答えます。でも、「じゃあ学力って何?」と聞くと、口ごもってしまう。そこで、「学力という言葉を使わないで、自分の言葉で学力を説明してみて」と投げかけると、「人とつながる力」「自分の考えを発信できる力」「何があっても諦めない力」「コミュニケーションを高める力」など、さまざまな意見が出てきます。その上で、「では、あなたたちの授業は、そうした力を付けるための授業になっていますか?」と問うと、全員が「ノー」と答えます。誰も「学力」のことを「テストで高い点数を取る力」「良い学校に進学するための力」「受験のための力」などとは言いません。それが本来の学力ではないということは、どの先生も知っているわけです。それなのに、実際に授業でやっているのは「高い点数を取る=学力調査の結果を高める」こと、つまり「見える学力」を高めることです。なぜなら、それをやっていれば上からも評価されるからです。でも、「見える学力」ばかりを高めようとしても、成績は上がりません。そのことに、多くの先生が気付いていない。そして結果が出ない子供たちに「何でお前たちは勉強しないんだ」と責任をかぶせる。その結果、子供たちはどんどん本来の学びから遠ざかるのです。

子供たちの10年後に必要な力
――子供たちに「学力とは何?」と聞けば、どう答えるでしょうか。

残念ながら、多くの子供たちが「テストで高い点数を取る力」と答えると思います。そういう授業や評価を受けているわけですから、仕方がありません。でも、子供たちに「10年後にあなたたちは社会に出る。今よりもっと進んだ社会になっている中で、自分にどんな力が欲しい?」と聞いたら、「テストで高い点数を取る力」とは言わないと思います。子供もそんなことは分かっているんです。点数に現れる「見える学力」は、繰り返しやれば身に付くものが多い。でも、子供たちが学校で過ごす時間は、1日8時間しかありません。その大半を繰り返しの学びに使った子供たちが、10年後の社会で果たして“なりたい自分”になっていけるのでしょうか。日々、社会のニーズは変わります。そのニーズをいち早く察知し、フィットさせていくべきなのが義務教育です。社会のニーズに絶対に遅れてはいけないのが、実は義務教育なのです。それなのに、現状は多くの学校が「10年後に必要な力」を考えることができていません。

――「10年後に必要な力」とは何でしょう。

大空小時代、多様な社会で子供たちがなりたい自分になるために、小学校6年間で身に付けるべき「見えない学力」とは何かについて、教職員みんなで考えました。そして、次の四つの力が生まれました。一つ目は「人を大切にする力」。これがなかったら、幸せにはなれません。「人を大切にする力」とは、どんな人とでも一緒に幸せになる力です。二つ目は「自分の考えを持つ力」です。自分の考えは人と違って当たり前。周りに左右されず、自分の考えを持つことが大切です。三つ目は「自分を表現する力」。自分の考えを持った上で「自分はこうしたい」「こう考えている」と表現できる力も不可欠です。表現は言葉に限りません。その子によって、いろいろな表現の仕方があってよいと思います。四つ目は「チャレンジする力」です。この力を付けるためには、学校で子供たちが失敗する場をもっとつくらねばいけないと思います。「チャレンジする力」は未来を創る力です。私は「見える学力」も否定はしませんが、経験上、「見える学力」ばかりを優先すると「見えない学力」が付きません。でも、「見えない学力」を大切にすれば、「見える学力」は付いてくるのです。大空小では優先順位がぶれないよう、「見える学力」を付ける活動は時間があったらやろうと決めていました。

(先を生きる取材班)

【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ) 大阪市生まれ。武庫川学院女子短期大学(現・武庫川女子大学短期大学部)教育学部保健体育学科卒業。1970年に教員となり、各校で教鞭(きょうべん)をとる。06年4月の開校時から15年3月まで大阪市立大空小学校の初代校長を務めた。大空小学校では「すべての子供の学習権を保障する」という理念のもと、教職員や地域の人たちとともに、障害の有無にかかわらず全ての子供がいつも一緒に学んでいる。14年には大空小学校の1年間を追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」が公開され、大きな反響を呼んだ。この映画は文科省の特別選定作品にも選ばれ、現在も全国各地の教育現場などで自主上映されている。映画のHP。45年の教職生活を経て退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)、『不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる21世紀を生きる力』(出口汪氏との共著・水王舎)など。

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