世界の教室から 北欧の教育最前線(16)入試がない国の学校成績

世界の教室から 北欧の教育最前線(16)入試がない国の学校成績
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スウェーデンでは6年生まで成績を受け取らない。また、高校や大学で日本のような入学選抜のための学力試験は行われない。しかし学校の成績への関心は高く、常に議論が続けられている。一体何が論点になっているのだろうか。

得意分野で勝負

高校にも大学にも日本のような入学試験がなく、スウェーデンの生徒たちは希望する学校や学科を自由に選択する。しかし希望者が多い学校や学科では、前段階の学校での成績を資料にして選抜が行われる。例えば高校入学の際には、義務教育最終学年の時につけられるA~Fの成績が、Aは20点、Bは17.5点、Cは15点、Dは12.5点、Eは10点、そして不合格のFは0点と換算され、成績がいい16教科の合計点を比べて、得点が高い生徒から順に入学が認められる。生徒は全教科で満遍なくいい成績を取る必要がなく、自分の得意な教科に集中して高得点をねらうことができる。入学者選抜に使うため、成績には信頼性と全国的な公平性が強く求められる。かつてはナショナルテストを使って成績が調整されていたが、1990年代にこの方式は廃止され、代わって全国共通の評価基準に準拠した評価をつけることになった。現在では、小学校から成人教育まで共通にA~Fの6段階で成績がつけられている。どの教育段階の科目にも全国共通にA、C、Eの評価基準が示され、教師たちはその基準に照らして成績をつける。AとCの間がB、CとEの間がDとなり、例えばCの基準をすべて満たしていて、Aは一部のみ満たしている場合にはBと判定されるが、このさじ加減は教員に任されている。小・中学校の評価基準は、長期的な学習成果が分かるように、各教科3年間区切りで書かれている。具体的な学習内容ではなく、継続的に育成する能力について記述されているのが特徴だ。例えば、中学校の物理では「生徒は結果と質問を対応させ、物理モデルや理論とうまく関連する、よく練られた結論を導くことができる」(Aの基準)といった具合だ。

成績は善・悪?

ただし、子供たちが成績を受け取るのは6年生からだ。ずいぶん遅いと思われるかもしれないが、これも2012年からで、それ以前は8年生(日本の中学2年生に相当)以降の生徒だけが成績を受け取っていた。成績開始の早期化は、子供たちに目標と自分の到達点を意識させて成績向上のモチベーションを持たせ、必要な生徒に早期から適切な支援を与えられるというのが主な理由だった。しかし、子供にかかるストレスへの懸念や必要性の薄さから反対も大きく、長年の議論の末の変更でもあった。右派政党はさらなる早期化を主張し、小学校4年生からの成績導入を望んでいる。これに左派政党や教員組合は強く反発している。成績導入を早めても学力が向上するわけではないし、小さい子供に成績を渡すと悪影響があると考えているのだ。さらに、6年の算数でFだった子供の半数は9年生でもFをとっており、十分な学習支援を受けられていないと指摘されている。そのため、成績の低学年化よりも適切な学習支援が必要だと主張している。議論が続く中、2017年からは希望校で成績を4年生から渡す実験が始まった。結果は数年後に明らかになる予定だ。

個別発達プラン

成績は学校と家庭とのコミュニケーションだと捉える向きもあるが、逆に成績がない学年の方が子供の学習状況がよくわかる、という保護者の声もある。教師は、A~Fの成績がつかない5年生までの子供たちに対しては、一人一人個別に作成した学習計画(IUP)に学習状況について記述する。IUPはこれまでの学習状況を基に、面談でこれからの学習目標を決めるためのツールだ。3年生と6年生の評価基準を参考に、各教科、各学年に期待される水準に到達しているかどうかをチェックする欄があり、その横に記述でのコメント欄がある。成績とは違ってオフィシャルな文書ではなく、教師によって記述の質は大きく異なるが、各教科一文字で表される成績よりも具体的で分かりやすい。成績をいつから、どのような形でつけ、何に使うか。文化によって考え方が違うのは興味深いが、スウェーデンでも成績や評価を学習支援にどう活用できるのかを考えながら、試行錯誤が続けられている。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)

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