義務教育の在り方、論点整理素案を議論 5類移行を見据えた意見も

義務教育の在り方、論点整理素案を議論 5類移行を見据えた意見も
論点整理案作成に向け議論が行われた中教審のWG(YouTubeで取材)
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 中教審の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に設置された、「義務教育の在り方ワーキンググループ」は2月1日、第5回会合をオンラインで開いた。文科省が義務教育の在り方を「①義務教育の意義」と「②学びの多様性」に分類した論点整理素案を提示。委員からは子供たちに必要な能力や不登校児童生徒への方策に対する論点への見解に加え、新型コロナウイルスの「5類移行」を見据えた意見も出されるなど、活発な議論が行われた。

 文科省が示した素案では「①義務教育の意義」について、論点をさらに、▽「子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割」▽「全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現」――の2つに分別した。

 「子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割」では、課題として、全人的な教育や他者の関わりといった日本型学校教育が同調圧力を高め、主体的に学ぶ意欲をそいだり、教員の多忙化につながったりするという弱みがあるとする一方、学年・学級という集団の中で、公共性と多様性の意義を長期的に学べる強みもあると表現。これらを整理した上で、令和の時代に義務教育として何を継承するか検討するべきとした。

 この論点に対しては、戸ヶ﨑勤委員(埼玉県戸田市教育委員会教育長)が「日本の子供たちはペーパー上で測れる知識や思考力は世界トップレベルだが、自己肯定感や自己効力感などは世界的にも見ても低い現状」と述べた上で、「自ら未来を切り開いていく力が低いということが、日本の若者の閉塞感や社会への無関心にもつながっていることが考えられる。もっと問題視して議論していくという必要があるのでは」と投げ掛けた。

 戸ヶ﨑委員の意見に付随して、黒沢正明委員(東京都八王子市立高尾山学園校長)も「学年を超えた友達と協力して何かをやり遂げる経験をすると自信もついて、自己肯定感が上がる」と不登校特例校での自身の経験も踏まえ、私見を述べた。その上で、同調圧力との兼ね合いはあるものの、「協力して何かを成し遂げる」といった視点を論点に入れることを提案した。

 「全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現」では、教員の処遇も論点の一つとして記載。教師として行うべき業務の整理や校務のデジタル化といった働き方改革を通して、子供たちの学びに向き合う時間を確保することに加え、優れた人材確保のために、教員を取り巻く環境についても検討が必要と記した。

 「②学びの多様性」については、▽「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通じた主体的・対話的で深い学びの具体化」▽「多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成」▽「学びにおけるオンラインの活用」▽「学校教育になじめないでいる子供に対する学びの保障」――の4つに論点を分類。

 このうち、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通じた主体的・対話的で深い学びの具体化」については、児童生徒自身が見通しを持ちながら、学びの方法や進度を選択した上で、同じ教室の仲間と互いに成長できる機会を持つことが重要とした。加えて、「一斉指導を維持するこれまでの学習規律の概念を発展させる必要があるのでは」と指摘。まずは国がこれからの授業の具体的なイメージを提示する必要があるとした。さらに検討の際には、子供たちが身に付けるべき資質能力から学びの在り方に留意するよう求めた。

 「学校教育になじめないでいる子供に対する学びの保障」については、近年急増している不登校について中心に取り上げた。文科省が毎年行っている問題行動調査で不登校要因の一つとしている「無気力・不安等」という項目が、かえって不登校の要因をつかみにくくしているのではないかとした上で、調査設定の改善も含め、丁寧な要因分析を行って方策を検討する必要があるとした。また、自分に適した環境を選択できるように不登校特例校やフリースクール、学校内別室といったさまざまな学びの場の抜本的な拡充を求めた。

 さらに、授業がつまらない・分からないなど学校に行きづらいと思っている子供は潜在的に多いのではないかと問題提起。学校が抱える困難さを明らかにするほか、普段の授業におけるICTの活用、課題を抱える子供の状況を評価・分析するための教育データの活用など、全ての子供たちにとって魅力ある学校づくりのための改善策の検討が必要とした。

 この論点に対し、今村久美委員(カタリバ代表理事)は「通用度の高い言葉で表現すると、今までの議論がなかったものになってしまうのでは。どう改善するのかの議論が、どのように出たかということが具体的に入っていた方がいい」と指摘。「調査設定の改善」とひとくくりにするのではなく、長期欠席や不登校傾向といったキーワードを盛り込むことを求めた。

 このほか、小柳和代委員(高松市教育委員会教育長)はアフターコロナを見据えた学校現場の対応について言及した。小柳委員は「学習指導要領の趣旨を理解した授業が進みつつある中で、一番大きな変化は新型コロナ。教育活動にさまざまな制約がある中で停滞した部分がある。密を避けるというのは学習指導要領の反対を向いているようなもの」と強調。5類移行が決定したことを踏まえ、児童生徒が中心となる特別活動や学校行事、地域に根差した内容の総合的な学習などの在り方を再確認するべきとした。

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