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近年は教員の労働環境が問題視され、働き方改革を求める声が高まりました。この記事では、教育現場に働き方改革が必要な理由と、教員の働き方改革が進まない理由について解説します。働き方改革を進める方法や、小学校、中学校で実際に行われた働き方改革の成功事例も紹介しますので、参考にしてください。
目次(Index)
1. そもそも働き方改革とは何か
2. 教育現場に働き方改革が必要な理由とは
3. 教員の働き方改革が進まない理由とは
4. 教育現場で働き方改革を進める方法とは
5. 働き方改革を実施した学校の成功事例
6. 教員の業務を明確化することが重要
7. 労働時間に対する意識改革を行う
8. まとめ
働き方改革とは、働く人が自分に合った働き方を選べる社会の実現を目的とした改革です。一億総活躍社会の実現を目指す国の施策であり、誰もが家庭や職場、地域で活躍できる社会を目指しています。一億総活躍社会とは、少子高齢化が進行する社会に歯止めをかけ、50年後も1億人の人口を維持し、全ての人が家庭や職場、地域で活躍できる社会を指す言葉です。
労働環境が過酷なあまり、教員から改善を求める声が上がっています。以下、働き方改革が必要とされる理由を解説します。
教員の労働時間の長さが、文部科学省が実施した教員勤務実態調査によって明らかになりました。2016(平成28)年度の教員の労働時間は、10年前と比較して大幅に増加しています。特に小中学校教員の時間外労働は長く、長時間労働が慢性化している状態です。過労により心身に悪影響を及ぼす可能性もあるため、一刻も早い改善が求められます。
○引用元・参考資料
文部科学省「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)」
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勤務時間が長く業務が多岐にわたるなど、教員が過酷な労働環境に置かれている状況が広く知られるようになったことで、教員志望者が減っています。
産休・育休代替教員や臨時的任用教員は、教員採用試験で不合格になり講師登録をした人から選ばれることが多いのですが、志願者が減っていることで不合格者の数も減っているため、全国の多くの自治体で教員不足が起きています。
そのため、年度当初に必要な数の教員を確保できず、一部の授業が実施できなかったり、教頭や教務主任などが学級担任を代行したりするなどの事態が発生しています。
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長時間労働による疲弊は、教育の質にも悪影響を及ぼす可能性があります。蓄積した心身の疲労は、授業の円滑な進行を妨げる原因になるからです。子どもたちに質の高い教育を提供するためにも、教員の心身の疲労は解消しなければなりません。働き方改革を進めることは、教員の指導力を高め、教育の質を向上することにもつながります。
長時間にわたって残業をしているにもかかわらず、公立学校の教員には実質的に残業代が支払われておらず、サービス残業の状態が続いています。それは、1971年に制定された給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)で、公立学校の教員には残業代を支払わないと定められたためです。
給特法は、1966年当時の教員の残業時間が月8時間程度であったことから、残業代の代わりに給料月額の4%相当の「教職調整額」を支給することとしています。しかし、近年では「過労死ライン」の月80時間を超えて残業する教員も数多くいるなど、実残業時間と見合っていない現状があります。
そのため、教職調整額を規定した給特法は問題視されており、見直しの動きも起きています。
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働き方改革の推進が急がれる教育現場ですが、推進を阻んでいる要因が幾つかあります。ここでは三つの要因について解説します。
社会からのさまざまな要請に応じる形で、学校教育には「キャリア教育」「起業家教育」「情報モラル教育」など、従来にはなかった「○○教育」が次々と取り入れられています。加えて、2022年度から順次実施された学習指導要領により、三つの柱からなる「資質・能力」の育成や、「主体的・対話的で深い学び」の実現などが新たに盛り込まれ、教員はより多くの時間を教材研究や授業準備に割かなければならなくなりました。一方で、教員の定数は増えておらず、「働き方改革を進めるのは現実的に難しい」との声も上がっています。
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中学校で教員の勤務を長時間化させている最大の要因は、部活動指導であると指摘されています。そのため、働き方改革の一環として指導や引率を地域の人材や企業、NPO法人に委託するなど地域移行の動きもありますが、指導者や活動場所の確保、活動資金の拠出といった問題が解決されず、思うように移行が進まない自治体や学校は少なくありません。
また、部活動指導を通して教師が生徒と日常的に関わることを重視する声や、部活動指導を学校教育の重要な柱と捉える考えがあることも、部活動改革を困難なものにしています。
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日本ではこれまで多くの学校で、出退勤時間の管理がされていませんでした。それは、給特法により残業代が支払われないため、管理する理由が乏しかったからです。
2019年に出された中央教育審議会の答申は、タイムカードの導入などにより勤務時間を把握することの必要性が盛り込まれましたが、適切に運用されていないケースも少なくありません。
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働き方改革の推進を妨げている要因はありますが、改善は可能です。働き方改革を進める方法を三つ解説します。
第一に、教員の業務量の軽減が働き方改革には不可欠です。教員が抱える仕事には、登下校の見守りや事務作業など外部で対応できる業務も多く、それらの外注化を図ることで業務量を軽減できます。もちろん、学校ごとの限られた予算では難しいため、行政主導で進める必要があります。部活動指導員やICT支援員のような外部の専門人材を配置すれば、指導の質の向上も期待できます。
その他、教員を増やして1学級当たりの児童生徒数を減らし、教員一人一人の業務量を減らしていくことも必要です。
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給特法は「どれだけ働いても残業代が支払われない」仕組みであるため、勤怠管理を疎かにする原因となっています。そのため、法改正で残業代が支払われる仕組みに変えるなどすれば、管理職が勤怠管理を適切に実施するようになるという意見もあります。
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働き方改革は行政主導で進めるだけではなく、学校単位で運営体制を見直すことも重要です。教員の適性に合った役割や配置を行い、負担が少ない円滑な体制を構築しましょう。具体的には、行事の見直しや不要な会議の廃止、教員をサポートする人材や地域リソースの活用、ICTの効果的な活用などを行うことで、教員の負担を軽減できます。
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一部の学校では、働き方改革を進めて成功した事例があります。以下は、文部科学省「全国の学校における 働き方改革事例集」から抜粋した成功事例です。こうした事例を参考にして、働き方改革を進めましょう。
宮城県白石市立白川小学校では、「生徒指導」や「学年」、「児童会」といった単位でのさまざまな会議が定例であり、どの教員も複数の会議を掛け持ちしていました。そこで、定例会議は月1回の職員会議のみとし、協議事項の精選もして時間を短縮しました。その結果、業務の効率化に成功し、職員室での日常的な相談時間も確保できるようになったため、コミュニケーションが密になりました。
新潟県新潟市立内野中学校では、2クラスを3人で担任するグループ担任制を導入し、学級担任の業務負担削減と、チームでの生徒指導の充実を図りました。保護者からは「担任が3人もいて、保護者面談をしてもらう教員も自由に選べる」と好評で、若手教員が生徒指導や保護者対応を一人で抱え込むような状況もなくなり、負担軽減につながりました。
兵庫県朝来市立生野中学校では、通知表の総合所見を書くのを3学期のみにしました。保護者から「毎学期の所見がほしい」という要望が上がったため、保護者代表と協議を重ね、「懇談会のみでも学習や生活の様子を十分伝えられる」と伝えた他、保護者全体へ学校便りなどを通じて丁寧に説明し、実施に踏み切りました。教員にとっては多忙な学期末に多くの時間が取られる業務だったため、余裕を持って子供に接することができるようになったという声が上がっています。
宮城県立聴覚支援学校は幼稚部から高等部・専攻科まである大規模校で、出張や年休など各教職員の予定を把握したり、打合せの資料を配布したりするのに苦労していました。そこで、表計算シートで行事予定と学校日誌を連携させ、そのシートに教職員が週の予定を入力すれば他の書式にも反映されるシステムを導入しました。その結果、入力回数や転記ミスの削減が図られ、特に管理職の余裕ができました。
大阪府枚方市教育委員会では職員の長時間勤務が常態化していたため、各業務を見直して改善を図りました。具体的に、「校長面談での指導主事による案内や立ち番、お茶出し」「部長の送迎」「所轄管外に行く際の書類での届け出」などを廃止し、さらに「退庁時刻の宣言」「時間外の学習会の一部縮小」「学校訪問の回数の見直し」などを進めました。その結果、職員の勤務時間が削減されたのに加え、必要な業務だけに集中できるようになったことでモチベーションの向上につながりました。
2019年の中央教育審議会答申では、「基本的には学校以外が担うべき業務」について具体的な内容が示されました。こうした業務は外部委託や地域移行を図っていく必要があります。教員や学校以外に業務の一部を依頼できれば、教員の負担は軽減され、働き方改革を進めることにつながります。
働き方改革は、行政や管理職が今の状況を「異常」だと認識し、「変えなければならない」という強い意思を持って進めていく必要があります。その傍ら、学校全体で働き方改革に取り組む土壌を作ったり、各教員が自身の業務を見直して効率化を図ったりするなど、自助努力を重ねていくことも重要です。
教員の働き方改革が進まない理由は、教員の業務が増え続けていること、そして労働時間が管理されていないことや部活動改革が難しいことなどが要因です。教員の業務を再度見直し、必要に応じて外部人材を活用したりICT化を進めたりしながら、働き方改革を進めていきましょう。