コミュニケーション能力は、教師の資質能力、教師力の重要な柱である。児童生徒はもとより、保護者、地域、同僚教師とも適切にコミュニケーションできる力が必要だ。若手教師に求められるコミュニケーションのポイントについて紹介する。面接や場面指導など、教採試験にも役立つ内容である。現在新型コロナウイルスの影響で新任教師に対する研修はほとんど行われていない状況だが、本来、初任研の校内研修では、多くの学校が「対人関係能力(コミュニケーション能力)」を取り上げている。教師には実践的な指導力とともに「コミュニケーション能力」の向上が求められているのである。
コミュニケーションの基本はあいさつである。学級での朝のあいさつだけではなく、通学路、廊下、校庭などで児童生徒とすれ違ったらきちんとあいさつをするようにしたい。あいさつにはどのような意味があるのか。それは「自分はあなたに興味があり、関わりたいと思っている」との意思表示であり、互いの存在を認め合うためのものであると言われている。したがって、あいさつをしないということは、その児童生徒に興味がない、と示しているようなものである。そのような教師は児童生徒だけではなく、保護者、同僚教師からも信頼されないだろう。あいさつのポイントは「目を見てあいさつする」である。元気よく、明るい声で、児童生徒の目を見てあいさつをすれば、児童生徒の反応もよくなってくるだろう。授業では、教師と児童生徒とのコミュニケーションの場面が多々ある。 児童生徒の話を聞くときは、話す児童生徒のほうに体と視線を向けることが大事である。この「向きと視線」に加え、「レスポンスとリズム同調」が重要だ。また、聞いているときは相づちを打つなどレスポンスを返す。返さないと話している相手はとても話しづらい。無反応は無視と同じである。
避けるべき3つの態度は、無視、無反応、拒絶。児童生徒の話を聞く場合、顔をそらしたり、無反応だったり、拒絶したりするような態度を取る教師はいないだろう。しかし、職員室で早く仕上げなくてはならない仕事に取り掛かっているときなどは、知らず知らずのうちにそのような態度を取っているかもしれない。必ず児童生徒のほうを向いて、レスポンスを返しながら話を聞こう。児童生徒に対する教育的コミュニケーションにおける教師の不可欠な態度は、「良い点に注目する」「待つことと失敗の受容」とされている。一般的に「悪い点を改善することに主眼をおく」グループと「良い点を伸ばすことに主眼をおく」グループに分けると、良い点を伸ばすグループはやる気が出て、いい取り組みをする、と言われている。したがって対児童生徒のコミュニケーションでは、「こうだからダメ」ではなく、「ここを伸ばせば、もっとよくなる」という視点でコミュニケーションをとると、児童生徒のやる気も上がる。
昨今は保護者から学校への過度な要求などもあり、保護者とのコミュニケーションに苦手意識を持つ若手教師も少なくない。教師と保護者の間にある溝について興味本位で取り上げるマスコミもあるので、なおさら腰が引くのだろう。だからこそ保護者と積極的に話し合っていきたい。「保護者としっかりコミュニケーションが図れる」ことは、日々の教育実践を実りあるものにするために、必須である。保護者とのコミュニケーションの基本は、「社会人と社会人の話し方」である。その柱は、何よりも「相手(保護者)に対する気配り、敬う気持ち」「教師も保護者も、協力して児童生徒を育てていくという気持ち」をもつことである。具体的な保護者とのやり取りは、まだ電話が多い。児童生徒の欠席は、近隣の他の児童生徒に連絡帳を託すか、電話で連絡してくる。クレームもまずは電話で始まることが多い。保護者とのやり取りを想定した「電話でのコミュニケーションの基本」を表にまとめておいた。電話の応対で保護者の学校への印象が決まる、とも言えるので参考にしてもらいたい。
新任教師、若手教師が教職という仕事を学ぶとき、とても重要な存在となるのが、同僚の先輩教師である。身近なモデルとして、まねをさせてもらおう。積極的にコミュニケーションを取って、授業や教材研究、学級経営などのアドバイスをもらうとよいだろう。初任研では、新任教師1人に、1人の指導教員が配置される。指導教員の多くはベテランである。この指導教員からできるだけ多くを学んでいきたい。その際重要なのは、敬意と感謝の心を持って接することだ。指導教員には、学級担任、教科担任、多様な校務など自分の仕事がある。新任教師の世話ばかりではない。多忙な仕事を抱えながら、指導をしてくれるのである。学校の同僚教師という立場をまずは理解し、社会人としてマナー、礼儀を心得て、相手を立てる気持ちで接しなければならない。指導教員には指導を積極的に受けるという姿勢を示したい。指示、指導、教示を受ける際は、きちんと聞いているという態度を示し、指示、指導の内容を正確に聞き取るように努め、聞きながらメモを取るなどして要点をまとめるようにする。
指導を受けている際、知らないことがあったら正直に、知らない、と言おう。新任だから仕事の手順や保護者との接し方などで分からない事項が多いのは当たり前だ。素直に教わろうとする姿勢が望ましい。指導教員から厳しく注意を受けることもあるだろう。ミスをしたときは弁解せずに、よく話を聞き、同じ失敗を二度繰り返さないようにしたい。よく言われるが、「学ぶ」はまねをするところから始まるという。指導教員や同僚のベテラン教師の授業を見て、積極的にまねていきたい。いいところを取り入れて、自らの指導技術をみがいていこう。