【イエナプランの中学校(1)】あれもない・これもない学校

【イエナプランの中学校(1)】あれもない・これもない学校
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 普通の学校にあって本校(大日向中学校)にないものを挙げてみたら、15個ありました。1年間同じ時間割、宿題、定期試験、数字による評価、学年別の教室(クラス)、同一方向を向いた机、教卓、黒板、校長室、「○○先生」という呼称、PTA、全校朝会、校則、制服、部活動です。「これらがなくて学校として大丈夫だろうか」と思う人もいるかもしれませんが、心配ありません。理想的な学校教育の在り方を追求したら、こうなるのです。

 まず、宿題と定期試験がないのは生徒に自律的な学びを求めているからです。写真は本校の教室(昨年度当初)です。確かに教卓も黒板もありません。これは一方的な講義形式の授業がないことを意味します。校則、制服がないのは自由が最大限保障されているということです。「○○先生」という呼び方ではなく、本人が呼ばれたい名前で呼ばれます。ちなみに筆者は、自身の中学生時代のあだ名「ちょうさん」と生徒からも保護者からも教職員からも呼ばれています。こうした呼ばれ方が当たり前になると、気持ちが楽になります。先生という肩書きで仕事をするというよりも、ありのままの人間としての自分がそこに居るという感覚になるからです。

本校の教室

 さて、本校は茂来(もらい)学園が設置する中学校で、長野県南佐久郡佐久穂町大日向にあります。フリースクールではなく、長野県によって認可された私立学校です。系列校の大日向小学校は2019年に日本で初めてイエナプラン教育を行う正規の学校(一条校)として開校しました。本校はそれより3年遅れて22年に開校し、22年度は生徒が21人、教職員は13人でした。2年目の今年度は生徒が30人ですが、定員は90人ですから、まだ発展途上の学校です。

 なぜ上記の15個がないのに、学校として成り立っているのでしょうか。代わりに何があるのでしょうか。その答えはイエナプラン教育の中にあります。では、イエナプラン教育とはどのような考え方に基づく教育なのでしょうか。次回は、そのことを解説します。

 この連載では、本校の特色ある教育をいろいろな角度から紹介していきます。奇妙な学校だと思われるかもしれませんが、連載内容のキーワードは自立、共生、自治、探究、個別最適な学びと協働的な学び、ウェルビーイングなど、近年学校教育に求められているものばかりです。つまり教育改革の先にある世界、その先端を試行錯誤しながら走っている、そんな学校です。

(本校のホームページ https://www.jenaplanschool.ac.jp/

【プロフィール】

長沼豊(ながぬま・ゆたか) 大日向中学校校長。学習院中等科に13年、学習院大学に23年勤務した後に現職。日本特別活動学会前会長、日本部活動学会前会長、日本シティズンシップ教育学会副会長、日本ボランティア学習協会理事、日本教育実践研究所所長、東京都板橋区教育委員会教育委員。著書に『人と人をつなぐと、教育も社会も変わる』(キーステージ21、単著)、『部活動改革2.0 文化部活動のあり方を問う』(中村堂、編著)など多数。座右の銘は「夢を大切に」。

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