【エビデンスで示す少人数学級の効果(6)】 少人数学級による非認知能力への効果

【エビデンスで示す少人数学級の効果(6)】 少人数学級による非認知能力への効果
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 非認知能力にはさまざまな心理的特性が含まれる。その中には、個々人に生まれつき備わっているような特性もあるが、注目すべきは家庭や学校における働き掛けによって変化し得るような特性である。本連載のテーマである少人数学級は、子どもたちの非認知能力を高める効果を持つのだろうか。

 先に断っておくと、少人数学級が児童生徒の非認知能力に与える効果に関するエビデンスは、それほど多くあるわけではない。また、前回、代表的な非認知能力の例を挙げたが、そうした代表的な特性と少人数学級の関係性を検証した研究は、管見の限り数えるほどしか存在しない。まだまだ研究途上の領域なのである。

 その数少ない研究例の一つが、関東地方A県の大規模データを用いた分析である。この研究では、約30万人の児童生徒を対象にアンケート調査を実施し、非認知能力として「自制心」「自己効力感」「勤勉性」の3つの心理特性を測定している。これら3つの特性に対して学級規模が与える影響を検証した結果、学級規模はいずれに対しても影響を与えないことが示されている。

 他方で、少人数学級が児童生徒の非認知能力を向上させるというエビデンスも存在している。それは、中部地方B市の児童生徒を対象とした教育心理学者のグループによる研究である。この研究では、教育心理学分野で確立された7つの心理尺度を非認知能力の指標として採用している。緻密な実証分析の結果、少人数学級は学力の向上に寄与すると同時に、友人相互の援助行動や教師からのサポートを増加させ、抑うつ傾向を低減する効果を持つことが示されている。

 教育心理学分野では、学校生活への積極的な関与や心理状態を表す「スクール・エンゲージメント」という概念が発展している。スクール・エンゲージメントと非認知能力は同一というわけではないが、重なり合う部分も少なくない。筆者は、国内の小学4年生を対象としたアンケート調査の結果を用いて、スクール・エンゲージメントに相当する心理尺度と学級規模の関係性を検証した。分析の結果は明快であり、少人数学級は授業中の妨害行為を低減させる一方で、児童の学校への帰属意識を高め、算数や理科の学習に対する好意的な態度を高めることが確認されている。

 少人数学級が子どもたちの非認知能力に与える影響については、残念ながら現時点では研究途上にあると言わざるを得ない。今後、質の高いエビデンスの蓄積が求められていると言えよう。

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