部活動の「地域移行」を実際に進めるのは、全国に約1700ある市区町村だ。ただ、抱えている課題は地域によって大きく異なり、首長の間にも多様な考え方がある。全国市長会は昨年6月、スポーツ庁に緊急意見を提出し、期限を切った地域移行に懸念を表明した。同会の社会文教委員長を務める埼玉県本庄市の吉田信解(しんげ)市長に改めて問題意識を聞いた。
――昨年6月に緊急意見を提出した背景について、改めて教えてください。
部活動改革を巡り、スポーツ庁と現場の問題意識にはギャップがありました。国の議論では、土日は地域活動に移行し、地域でやってもらいたいということが非常にクローズアップされました。これには納得できる部分はある一方、現実的に難しいと思う面もあります。
先生の「働き方改革」が必要だというのはふに落ちます。部活動には必ず顧問の先生を置かなければならず、先生があまり得意ではない競技の指導を余儀なくされ、土日も出勤しなければならないことが苦痛になっているという現状があります。これは確かに大きな問題です。しかし、市区町村から見れば、いくつか欠けていた視点もあったように思います。
――具体的にはどういった点でしょうか。
部活動を巡る課題は、地域によって非常に異なります。当初の国の改革では、受け皿となるスポーツ団体がある地域が好事例として宣伝されているフシがありました。しかし現実には、学校が唯一のスポーツやレクリエーションの場となっている自治体もあるわけです。
本庄市では部活動改革を進める上で、教員を対象にアンケートを実施しましたが、指導を望む先生、拒否感を示す先生、中間的な立場の先生がだいたい3分の1ずつに分かれました。こうした指導者の問題だけでなく、一つの中学校で必要な部員数を確保できないことが問題となっている競技もあります。地域どころか、個別の競技や部ごとに課題が異なってくるため、解決策を「地域移行」という一つの言葉でくくるのは難しいのではないでしょうか。また、部活動が果たしてきた役割や教育的意義にも留意する必要があります。
――部活動の教育的意義とは、どのような部分だと考えますか。
一つの目標に向かって異学年が交流し、その中でもまれる経験には大いに意義があると考えます。私は器械体操部の出身ですが、先生よりも上級生から技を教えてもらう機会が多く、自分が上級生になった時に後輩を指導した経験は人間の幅を広げてくれました。団体競技ではチームプレーの大切さが学べますし、個人競技であっても、お互いの切磋琢磨(せっさたくま)は成長の糧となります。
また、学校にはいろいろなタイプの子がいます。中には勉強が得意ではない子もいます。そのような子どもたちにとって、好きなスポーツや文化活動に打ち込み、スキルを磨いていく経験は、自己肯定感や自信の創出にもつながっているはずです。公教育の中でこうした機会を保障するという視点を、私は大切にしたいと思います。
――地域移行には慎重であるべきということでしょうか。
そうではありません。地域クラブ活動で代替できるのであれば、部活動にこだわる必要はありません。同時に言えるのは、経済的な理由や地域事情によってクラブチームに入れない子どもの中にも、「野球がやりたい」「サッカーがやりたい」という生徒がいるのですから、同じように競技に親しむ機会が与えられなければいけません。国が考える地域移行が、さまざまな形での機会保障を意味するのであれば、大いに賛成です。
従来の部活動に問題があったのも事実です。学校という「閉じた系」の中で外部の目が入りづらかったことにより、一部の部活動において、教員も保護者も生徒も「暴走」している実態があったことは否めません。教員による支配構造があり、抑圧されている子どもたちがいたことも事実だと思います。改革の議論の中で、こうした部分が是正されていくことは大切だと思います。
――国は2025年度までの3年間を地域移行に向けた改革推進期間と位置付けており、各地で部活動改革の動きが加速しています。
全国市長会の問題意識を国はしっかりと受け止め、必要な支援策を打ち出してくれているように感じています。私は改革のゴールを「地域移行」だけに限定せず、さまざまな実情に合わせた「最適化」を目指すべきだと考えています。これまで申し上げた通り、部活動を巡る課題は、地域や競技、個別の部によって異なり、「モザイク」のような様相を呈しています。それぞれに応じた最適な解決策を模索していくべきではないでしょうか。
それは外部指導員を確保することかもしれないし、複数校を一緒にした「合同部活動」なのかもしれない。地域移行が最適解ということもあり得ます。また、教員が指導を望み、子どもたちも満足しているのであれば、うまく回っているわけですから、現状を無理に変更することは逆効果になるかもしれません。
強調したいのは、改革そのものが目的になるのは本末転倒だということです。子どもたちが好きなスポーツや文化活動に打ち込み、成長していくための環境をどうすれば維持することができるかという視点を、見失ってはいけないと思うのです。