学校教育では、学校教育法に基づいて児童生徒に対して懲戒を加えることができるとされています。特に高校では80%以上の学校で懲戒指導が実施され、別室指導や停学、退学といった指導が行われています。こうした懲戒指導は適切な運用が求められていますが、一部の学校では過度に懲戒に依存したゼロトレランス的な生徒指導が横行していたり、昨今では「指導死」や「スクールハラスメント」などという深刻な人権問題に発展してしまったりする例もあります。
このような懲罰的な教師の指導は、「人を罰でコントロールする」ということを児童生徒が学んでしまう機会となってしまいます。ポジティブ行動支援は、こういった懲戒指導による問題行動の統制・抑制ではなく、教示・指導・支援を通して児童生徒のポジティブな行動を増やし、その結果として相対的に問題行動の減少を図っていくという、懲戒指導に頼らない生徒指導体制の構築を実現します。
懲戒中心の生徒指導から脱却するためによく用いられるのが「ポジティブ行動カード(以下、カード)」です(図の①)。カードを学校に導入することによって、図の②のような教師と児童生徒の行動の機能を学校に実装することができます(※)。このように行動の機能に基づいて整理すると、カードが児童生徒のポジティブな行動に対してさまざまな役割を果たすことが分かります。また、これら以外にも、カードを家庭と共有することで保護者と行動の実際を共有でき、家庭でのフィードバックが生まれたり、カードの記述をキャリア教育に生かしたりするなど、実践校ではさまざまな活用がなされています。
このような取り組みによって、ある高校では懲戒件数が大きく減少したことも実証されています(図の③)。
ポジティブ行動支援は「カードを用いればいい」という実践のHow toを提供するものではありません。カードは学校・教師・児童生徒の行動の機能の変容を促す役割を果たす「実践」として用いることができます。
高校では懲戒件数の集計が行われていますので、これを実践が効果的・機能的であるかどうかの「データ」として活用できます。さらにカードを活用して学校管理職からの教師へのフィードバックを行うなど、カードを学校の「システム」として生かしていくこともできるでしょう。
このように、新しいツールの導入と既存の学校のデータを活用し、システムを構築していくことで、懲戒に頼らない生徒指導体制を構築することができるのです。
※本実践の詳細は「松山・三田地(2020)高等学校における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)第1層支援の実践―Good Behavior Ticket (GBT)とPositive Peer Reporting (PPR)の付加効果― 行動分析学研究34(2), P258-273」をご参照ください。