「それじゃあまず、連絡帳を見せてもらっていい?」
ミナミ先生にそう言われ、キタノ先生は連絡帳を見せました。連絡帳には、ニシダさんの母親の字でヒガシさんについてのエピソードがびっしりと書き込まれており、毎回キタノ先生の意見や感想を求める文で締めくくられています。それに対し、キタノ先生は一つ一つ丁寧に自分なりの見解やコメントを返しています。
「忙しい中、よく毎回これだけの文章を書いて、先生はえらいです」
ミナミ先生が感心していると、「でも、結局ニシダさんのお母さんには納得してもらえていないようで、翌日も同じようなことが書かれてくるんです。もう何をどう書いたらいいか分からなくて…」とキタノ先生が小さな声で言いました。
すると、連絡帳を読みながらミナミ先生がこう言いました。
「確かにキタノ先生、毎回よくお母さんの質問に答えていて、それはそれでいいのだけど、これだとQ&Aの繰り返しで、このままだと一方的に振り回されてばかりになってしまうかな」
「それから、キタノ先生、気付いている?きっと先生は『ヒガシさんはニシダさんに意地悪しているわけではない』と説明しているつもりなんだと思うけれど、ニシダさんのお母さんからしたら、キタノ先生はヒガシさんの味方をしてかばっているように感じるかもしれない」
キタノ先生が慌てて連絡帳を読み直してみると、確かにヒガシさんは決して意地悪するような子ではなく優しいところもたくさんある、とヒガシさんのことを何とか理解してもらおうという内容の文章が書かれています。
「それと、最初の方は学校であった出来事が多いけれど、だんだん幼稚園でのエピソードが増えているのも気になるわね。どうかな?一度学校に来ていただいたらどう?私も同席するから」
ミナミ先生の提案にキタノ先生は大きくうなずきました。
連絡帳は必要な連絡をやりとりするための家庭と学校をつなぐツールです。この連絡帳に保護者の思いがつづられてくることがあります。時には、一見するとただの連絡に見える文章の背景に、保護者の不安な思いが隠れていることもあります。
以前、「先生の字で『はい、分かりました』って書いてあると安心するんです」とうれしそうに話してくださった保護者がいました。時間のない中、連絡帳の確認や返信を負担に感じることもあるでしょう。しかし、うまく活用することで、保護者との信頼関係づくりの貴重な一歩にもなり得るのです。