本連載では「非正規教員問題 負のスパイラルが起きている構造」と題している通り、非正規教員を取り巻く問題だけにとどまらず、この問題が公教育全体に対していかなる影響を与えているのかを多面的に考えていきたい。
第1回は、非正規教員に対する言説(いわばイメージ)に注目したい。例えば以下に示す言説は聞いたことがあったり、読者自身が感じていることだったりするかもしれない。これらは果たして現実を捉えているだろうか。
○非正規教員は産休等の先生の代わりにくるピンチヒッターでしょう?
○非正規教員は(採用試験に落ちているから)、正規教員より格下だよね?
○非正規教員としての働き方は「多様な働き方」の一つだからいいよね?
実は、産休等の代替として特定の教科・科目のみを教える非正規教員が存在している一方で、誰の代替でもない非正規教員として勤務している者がいる。その多くは正規教員と同様に学級担任をしたり、責任のある重要な校務分掌を任されたりしており、明らかに「ピンチヒッター」としての領分を越えている。また、例えば学級崩壊を起こしている学級に、年度途中から担任として着任し、学級崩壊を見事に(人によっては何度も)立て直す非正規教員もいる。このような「実績」を有していても、教員採用試験において積極的に評価されるわけではない。
こうした非正規教員の現実やその問題性は、少しずつではあるが、光が当てられるようになってきた。『教員不足クライシス―非正規教員のリアルからせまる教育の危機』(旬報社、2023年)や『非正規教員の研究 「使い捨てられる教師たち」の知られざる実態』(時事通信社、22年)をはじめ複数の書籍などが刊行されてきたことからもそれは裏付けられるだろう。
とはいえ、非正規教員の現実に迫れば迫るほど、それは複雑怪奇だと表現したくなる。非正規教員には教員制度・文化・慣習などのはざまで苦しんでいる者がにいる一方で、まさに「多様な働き方」として肯定的に受け入れている側面もある。そして、その現実が社会的にも学術的にも十分に認知されないまま、先述したような言説だけが独り歩きしているのである。
言説はあくまで現実のほんの一側面を映しているにすぎない。非正規教員とは一体何者なのか。なぜ近年増加していて、教員不足問題とどのように関わっているのか。非正規教員はどのような問題を抱え苦しんでいるのか。そして、この問題が公教育に対していかなる影響を及ぼしているのか。本連載を通じて、一つ一つ解きほぐしていきたい。
【プロフィール】
原北祥悟(はらきた・しょうご) 崇城大学総合教育センター 助教。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程単位取得退学。博士(教育学)。第一工業大学共通教育センター助教などを経て現職。専門は教育行政学・教育経営学。共編著に『教員不足クライシス―非正規教員のリアルからせまる教育の危機―』(旬報社)、共著に『多様な教職ルートの国際比較―教員不足問題を交えて―』(学術研究出版)など。