近年、臨時免許状の授与件数が増えている。教員不足問題の文脈から、そのことを聞いた読者も多いのではないだろうか。実は、臨時免許状は非正規教員問題とも深く関連している。今回は、非正規教員という存在の複雑さと臨時免許状との関係について理解を深めたいと思う。
臨時免許状とは、「普通免許状を有する者を採用できない場合に限り、例外的に授与する」「助教諭」の免許状であり、名称の通り臨時(≒一時的/緊急的)の免許状である。文部科学省の調査によれば、その授与件数は2022年度時点で小学校4888件、中学校2195件、高校2518件となっており、20年度以降3つの校種全てで単調増加している。
この事態を単純に指摘すれば、例えば小学校の場合、全国で4888人の普通免許状を有する者を採用できなかったという状況を意味しており、教員不足の深刻さを如実に表していると言えよう。なお、文科省の「『教師不足』に関する実態調査」における「教師不足」は、「臨時的任用教員等の講師の確保ができず、(中略)欠員が生じる状態」であるため、臨時免許状を授与されて配置された教員分の数は「教師不足」として計上されていない。
何よりここで強調したいことは、臨時免許状授与者の多くが臨時的任用教員等の非正規教員として勤務している状況にあることである。臨時免許状は「助教諭」の免許状であるため、「学校基本調査」では本来「助教諭」として計上されるはずだが、自治体によっては「講師」や「教諭」として計上されている可能がある。このように全国的に統一されていない曖昧な運用が、非正規教員の実態や問題を見えにくくさせている要因の一つになっている。
さて、周知の通り、非正規教員の多くは研修の機会に恵まれていない。例えば小学校教員としての知識も技能もない者が、小学校の臨時免許状を急に授与され、しかも非正規教員として子どもたちに教育をしているという事態をどう受け止めたらよいだろうか。
当事者である多くの非正規教員は独学で小学校全科の授業研究を行い、非正規という任用形態に不安を覚えながら、日々の膨大な業務にも積極的に取り組んでいるはずである。普通免許状を有する者を採用できないことや、本来正規で採用すべき者を非正規教員として採用することの問題や責任は教育法制や行政に求められるべきことであり、非正規教員個人に帰属されるべきことではない。
これまで非正規教員問題は労働問題として議論されてきた。しかし、「誰が非正規教員なのか」という視点は、また異なる問題・論点を立ち上げるものではないだろうか。今回の内容に沿えば、臨時免許状を授与して非正規教員として勤務させることの常態化は、免許制度が保証する「専門性」の理念と対立し得る。非正規教員問題をより構造的に捉えるためにも、非正規教員という概念そのものにしっかり向き合う必要があるだろう。