多くの子どもが学校生活で苦戦しています。2022年度は、不登校の小中学生が約29万9千人(3.2%)となりました。「不登校」は学校に通っていないという状態を指す用語で、病気や障害の用語ではありません。スクールソーシャルワーカー(SSW)の経験が長い鈴木庸裕氏(2002)は、不登校の状態にある子どもを「在宅児童生徒」と言っています。不登校の状態は一人一人違います。
一人一人の子どもの学校教育を充実させるためには、「学校教育」の専門性はもちろん、個別の子どもに焦点を当てる「心理学」も役立ちます。学校教育と心理学の知見を統合して、子どもの学校生活の質(Quality of School Life: QOSL)を援助することを目指すのが学校心理学です。学校心理学は「一人ひとりの子どもの学習面、心理・社会面、進路・キャリア面、健康面(学校生活)における問題状況の解決とすべての子どもの成長を促進する心理教育的援助サービス」の体系と定義されています(石隈,1999:石隈・家近,2021)。
「心理教育的援助サービス」における「心理」とは「心理学」を指します。心理学は個に焦点を当てた学問です。そして「教育的援助サービス」は、教師やスクールカウンセラー(SC)らと連携して行う援助サービスで、学校教育の一環として行われます。そして、「心理教育的援助サービス」は、スクールカウンセリングという用語と同様に使われます。
学校心理学は学校教育と心理学の橋渡しをする体系として、教師やSCらに共通の言語を提供しています。その具体的内容を本連載で紹介していきます。そして、学校心理学の提案する実践モデルは、学校教育の領域では生徒指導・教育相談、特別支援教育、学校保健などにおいて、心理学の領域ではスクールカウンセラーの活動などにおいて、参考にされています。もちろん、今日の子どもの援助には学校教育、心理学だけでなく、福祉学、社会学、医学などの知見と方法が必要です。学校心理学は、多分野の知見を統合する学校教育の進化の一歩にすぎません。
学校心理学の主な考え方を紹介します(石隈,2023)。
①子どもをユニークな一つの人格として、そして個人差のある一人の児童生徒(学習者)として尊重する。
②子どもが課題に取り組み成長していく過程で、葛藤や問題が生じるのは避けられないことであり、子どもを葛藤や問題に対処していくことを通して成長する。
③子どもは自分の能力、性格、特性(自助資源)と周りのさまざまな援助資源を活用しながら、自分のペースで成長していく。
④全ての子どもは発達する過程で、援助が必要である。全ての教職員、家族、地域の連携で、全ての子どもの成長を援助する。
主な参考・引用文献:石隈利紀・家近早苗(2021)『スクールカウンセリングのこれから』創元社