第10回 養育困難家庭を支えるということ

第10回 養育困難家庭を支えるということ
【協賛企画】
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 「ソライさん、放課後ちょっと残って先生のお手伝いしてくれる?」

 「えっ、最悪なんですけど」

 ハルタ先生に指名されたソライさんは、不満げな声を上げましたが、それでも放課後、教科準備室にやって来ました。ハルタ先生は自分の担当教科の準備をしながら、話し掛けました。

 「ソライさん、教材費のことなんだけど…」

 教材費の提出期限はすでに1週間も過ぎています。

 「ごめん、忘れちゃった」

 「そっか、よろしくね。明日、持って来られなかったら、先生からもおうちの人にお願いしてみるね」

 「それと最近、遅刻が多いけれど大丈夫?おうちの人は起こしてくれないの?そう言えば小学生の弟くんもいたよね」

 「うちで一番早く起きるのは私なの。それで弟を起こして、パン食べさせて学校に来るんだ」手元のプリントを見つめたままソライさんは答えました。

 「そう、ソライさんが頑張っているんだ。偉いね。でも、先生たちも一緒に考えるから、困っていることがあったら話してね。一人で頑張らなくていいんだよ」

 ハルタ先生がそっと声を掛けると、ソライさんはしばらく黙っていましたが、やがてぽつりぽつりと家庭の状況を話してくれました。ソライさんの話から、父は仕事が長続きせず、母は精神的に不安定で、調子の悪い時にはほぼ寝たきりとなり、とても家事や子育てができる状態ではないことが分かってきました。

 ハルタ先生はすぐ校長先生に報告した上で、地域の子育て支援センターに相談をしました。センターでは養育困難家庭としてソライさんの弟が通う小学校とも連絡を取り、要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)で今後の対応について話し合うことになりました。

 ソライさんの家庭のように、保護者と連携を取りたくても保護者の養育力が弱いケースもあります。そのような場合、地域のネットワークによる支援の出番です。保護者自身が課題を抱えている場合、残念ながら短期間での解決は難しいのが現実です。一方、子どもたちは日々成長しており、迅速な支援が望まれます。そして、実はこの子ども時代の「大人を信頼し、安心して頼ってもいいんだ」という実感を伴う経験が、次世代の保護者支援へとつながっていくのです。

 本連載は今回で最終回となります。限られた字数の中で十分に語りきれない部分もありましたが、本連載が現場で日々子どもたちや保護者と向き合っている先生方の力に少しでもなれましたら幸いです。(おわり)

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